壊された日常と新たな生


ただ、毎日会社に行くという日常を過ごしていただけだったはずなのに…私の人生は理由も知らないうちに変わっていて、もう戻れなくなっていた。
重大な遺伝病の有り得る家系だったから家庭は作らず仕事に生きると決めていただけだった。それだけの日々は本当ならアニメやアメコミ、ゲームあたりにしか存在しないはずのディセプティコンによって破壊された。




「この娘が適合者か…こちらの地球人と大した違いは見当たらん。改造が要るな」

メガトロンの一言でエイコの肉体は、彼らのエネルギーである青い液体・エネルゴンに浸されたまま暫くは目覚める事もなくスタースクリームに世話をされた。

がぼがぼ、と泡を吐き出して沈められた裸体は暴れる事もなく肺をエネルゴンで満たした。捕らえた折に負傷したらしい各所の傷口から滲出する鉄分にエネルゴンは瞬く間に反応し、体内へ吸収されてゆく。
血管や肺から吸収され、心臓や脳にじわじわと広がったそれが体内外をゆっくりと組み換えていくのだ。

今まで数多くの娘達が適合者として改造を施されては非適合者として改造の為のエネルゴンで出来た培養液内で死んだ。
前の女は気を許した隙に逃げ出した挙げ句、ディセプティコンの印しを付けていたが為にオートボットに殺された。逃げ出したりしなければ、今頃は数多くの兵達の母としてそれなりの地位を築いていただろうが、その女の生んだ兵達は戦場で多くが死んだ。

「さあ、早く変化しろよ…マスター・メガトロンが帰って来る…お前はディセプティコンのママになるんだぜぇ…エイコ」

***

「変化しておらんではないか!」

透明な膜に包まれた培養液に浮かぶのは培養液に沈めた時と変わらない女の裸体だった。

培養液を包んでいた卵の様な膜をメガトロンに乱暴に剥ぎ取られて青い培養液と共に女は床に零れ落ちた。落ちたその場で、女の裸体はエネルゴンで出来た培養液を見る見るうちに吸収し、黒く長い髪は金属質の光沢を放ち出したかと想うと、裸体に服を着せるかの様に姿が変容を始める。が、途中で変化が止まってしまう。

「エネルゴンが足りんらしい…貴様等もエネルギーを分けてやれ」

幼いトランスフォーマーを育てた経験のある一人であるメガトロンはピンときたらしく、手のひらを彼女にかざし、エネルギーを分けはじめた。メガトロンに倣いその場に居たディセプティコンがエネルギーを彼女に分け与えた。

再び変化がはじまり、彼女の身体はサウンドウェーブよりは小さいが、元の肉体よりも大きく変化していった。

真っ黒な長髪は、そのまま細くしなやかな金属の髪。しっとりと滑らかで白い肌は、プラチナの様でいてまるで磨いたシェルの様な柔らかな輝きのある肌。スラリとしつつも女らしさのあるボディパーツ…全てが、その場のディセプティコンを劣情に駆り立てた。

メガトロンは床に倒れたままの女の腕を鷲掴みにし、無理やり上半身を起こさせると首筋に手のひらを当て、女のようやく薄く開いた目を見、わらって言った。

「エイコ、お前はディセプティコンの女だ…兵達の母となるのだ」

***

何故、と言う声は出なかった。何かを言う前に、エイコはブレインに最低限の情報を入力する為にケーブルに絡め取られていた。
入力を終えたエイコは休む間も無く、メガトロンとの所謂初夜を迎える。
其れは苦痛を伴った。胸の辺りに心臓の代わりの様に出来たスパークを剥き出しにされ、同様に露出したメガトロンのスパークと一度融け合った。その痛みはエイコの身を捩らせ、抜け出ぬ様にメガトロンにぎっちりと抱かれた。漏れ出る呻きは混ざり合い、其れも身を捩る様もメガトロンにとっては興奮させるのだろう。口許は笑いに歪んでいた。
「痛いのだろう。私もなかなかに痛みが有るからな。だが、暴れるな……融け合ったスパークが元に戻るまで耐えろ」
スパークの融合から、遺伝子データが送り込まれて、情報の嵐にブレインサーキットがショートしそうだった。その中で囁かれたメガトロンの声にエイコは、アイセンサーを揺らし、見上げる。繋がった目線にセンシティブなエイコのブレインは同族への情を感じ取り、ゆるりとメガトロンの肩口に頬を寄せて、背中に震える手を添わせた。
「殊勝な事だ。そうしていれば良い……」

***

苦痛は大きかったが、あの情の込められた目線を見たエイコは既に拒絶など出来なくなっていた。

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