001、見習い
審神者名として、深紫(こきむらさき)と言う与えられた名で、老竹と言う審神者の本丸で過ごす見習いとしての一年。養成所で教えられた通りに、やってはならない事に気を付け、やらなければならない課題のリストに審神者候補者の手引書…そして支給された端末に、制服としての巫女服が着替えを入れて二着。私物は下着と筆記具、過去に置いて来たもう会えない妹がくれた言わば形見の髪結紐。他の私物は養成所のロッカー室に預けてある。ここのロッカーは預けた者の霊力と鍵によって開ける不思議なタイプになっている。
その養成所では、刀剣乱舞と言うゲームは、こうやって刀剣男士達を顕現させ易くする為の策の一つだったのだと養成所で聞いて、同じ時代からの審神者候補者と共に我々も上手く乗せられたものだと笑い合ったものだ。
養成所での最終試験に合格した者が見習いとして行く本丸は、成績優秀で刀剣男士の扱いも模範となる本丸が選ばれるのだと言う。私が行く先も例に漏れないのだろうと期待していると同時に、ついて行けるのか不安でもある。
「深紫殿、色々と御教授頂き有難き事に御座いました。見習い期間中、その後もまた良き友で有りましょう。」
「いえいえ、此方こそ鉛丹様には良う教えて頂きました。私からも頼みたいと思うて居た所でした。此方での連絡方法も皆で練習しました故、文でも通話でもお待ちしていますよ。そして必ず又会い見えましょう。」
養成所で共に学んだ一人である鉛丹(えんたん)の挨拶に此方も答えて再会を約した。その様に、それぞれ挨拶を交わし、講師に見送られてそれぞれの見習い先へと向かった。
***
刀剣男士に案内され、通された広間にて下座に座る。確りと礼儀をもって挨拶をと講師に言われていた為、審神者が入室する時には確り頭も下げた。この辺りの礼儀作法は過去から連れて来られた審神者候補者仲間の中でも、様々な時代の者が居た中で、最も良いであろう作法を皆で擦り合わせて身に付けた。
が、その体勢のまま、中々声も掛けられないので、動けずにいた。
「面を上げよ。」
初期刀であろうか、蜂須賀虎徹の声で漸く顔を上げ、目線が多少上がる。チラリと見えたのは洋装の若い男だ。彼が老竹だろう。
「部屋は離れを使う様にとの仰せだ。荷物の整理もあるだろう。今日は下がって良い。研修に関しては、追って連絡を入れよう。」
此処の審神者が声を上げずに刀剣男士に対応させていると言う事は、そう言う対応が相応しいだろう。私は未だ審神者では無いのだから。
「はい。お心遣い感謝致します。」
対応を任されている蜂須賀虎徹へそう伝えて礼をし、案内してくれると言う秋田藤四郎に連れられて離れへ向かった。
「見習いさんのお荷物、これだけですか?」
退室し、控えの間にて堀川国広に預けてあった私の持つ風呂敷包みを受け取った時、そう聞かれた。
「はい。持ち込む私物には制限が御座います故、私物の殆どは預けておく必要が有るのです。」
先祖伝来の……本来であれば、輿入れの懐刀も有ったのだが、流石に敵地では無い此処に持ち込む私物には選ばなかった。
「だから日用品は此方で用意したんですね。何でかなって思ってたんですよ。」
そう言うのは堀川国広だった。そこはお手数掛けるなとは思ったが、決まり故に仕方無い。
「私の私物は本当に最低限ですよ。家族の形見が一つに一部の衣類、其れから余り金子の入っていない財布くらいな物です。ああ、そう言えば、課題用の筆記用具は養成所で配られた量産品ですけれど、硯が気に入らなくて、それだけは買い足しました。」
本当にそれだけだ。後は配布された至って普通の端末。これで、審神者用SNSの片隅にある、見習い用のアカウントで日記をつけたり同期以外とも交流できるらしい。日記を書くにあたって、何もキーボードは必須では無く、手書きモードに切り替え、範囲内に紙を置けば、書いた物を毛筆と墨だろうが、万年筆だろうが、何でも自動で取り込んでくれる。