廃屋のポルターガイスト 1
いつもの現世調査だと、色々と付き合いの長い……と言うか5年ほど前に神嫁の契りを交わした太郎太刀を連れて現世へ赴いた。
現世では所属国名から取って姓を備前とし、名は審神者名の翠玉と名乗る。太郎太刀には備前太郎と名乗ってもらう。普段から太郎さんと呼称しているので問題は無い。そして太郎太刀の方は翠玉を仕事中は主と、それ以外では翠玉からスイまたはお前と呼ぶから、現世任務の場合はそちらで呼んで欲しいと言ってある為、問題は無い。
翠玉は神嫁と成る前から、本丸で末席とは言え多くの神と同じ結界の中で十年過ごした。審神者として召集されてからは精進して過ごしていた事も有り、結界内を清浄なある種の神域に近しい空間に、たったの三年で仕上げていた。毎日の入浴中に常温の水を頭からシャワーで被りながらの祝詞の後に、身を清めてから、浴槽で確り温まるのが日課で、時間さえあれば御神刀や山伏、江雪らとの御勤めを欠かさなかった。時には山籠りに付き合うどころか、共に精進していた。食事は戦に出る彼等は力を出す為に肉も関係無く食したが、翠玉は五葷も避けて飲み物は白湯と言う生活だった。翠玉は意外に平気で、むしろ健康的な食事のお陰で肌艶も良くなって喜んでいた。戦に出ない時の御神刀達や江雪達も同じ食事を摂る為、現世任務での食事は本丸から持って行く弁当と、水筒に入れた本丸で翠玉の霊力によって自然に浄められた水になる。水だけならば、コンビニで売っている国内産ミネラルウォーターに霊力を込めて浄化すれば問題は無い。問題は食事だ。五葷も肉類全ても駄目となれば、案外見つからないのだ。最終的に食べずに清めた水を飲むだけの方がマシな場合もある。長期間本丸に帰れない等の事情があったら材料を買って自作する事も考えて、レシピノートを本丸の料理出来る刀剣男士達や御神刀達とも話し合いながら書いてある。
此処までしても、出来たら一日一度は本丸へ帰りたいのが本音だ。長く清浄な本丸にて過ごした翠玉は現世の穢れに少し弱くなって仕舞ったのだ。普通に滞在するだけなら未だ良いが、墜ちつつある霊や神の類いが近いと当てられる。その分、祓う力も強くなったのは幸いだと言える。そして、神嫁と成ってからはそれらに拍車がかかった。その為、現世任務で夫である太郎太刀の助力が必須となっているのだ。元より刀剣には邪を寄せ付け難い力が有る。其れが主従と言う繋がりに夫婦と言う繋がりの二つの太い縁は二人の辺りだけを本丸に準拠する神域の様な物を作り出している。
政府の職員に送られて辿り着いたのは、事前の資料の通り学校だった。
別段、問題がある様には見えない。この程度の浮遊霊は居て当然のものであるし、其れらはそう強い者でも無い。幼い子供はちょっと霊的な感受性の高い場合が多いが、此処は十代後半の子供達が通う高校である。そう強い霊力の生徒ならば、未来の審神者候補者・政府の各種職員候補者として、政府でも把握しているだろうが、現状では居ないとの報告も聞いた。
そうそう居るものでは無いのが現実であり、そこそこに力の有る者は現世にて、こういう時の対処が出来る様にしてもらう必要性がある為、でもある。まあ、念の為、と審神者や政府職員でも祓う力や浄化能力に多少長けたモノが、こうやって時折では有るが現世へ赴く様にしている。現場を見なければ、現状は分からないものだから。
しかし、此処は問題無さそうだ。そう拍子抜けして、翠玉は身体に納めた神刀の本体と隣に立つ夫の存在に、此の現場には大きい力だな、と何となく思った。
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2020/11/27