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行先が分かっている私とは違い、エースは島々を渡り歩くことになるのでタイムラグがあった。だが、無事に決闘は始まった。住民が避難する中、私は一人炎の上がる方角を見ていた。あそこにエースがいる。今すぐ会いに行って、モビーに帰ろうと腕を引きたいのに、エースはそれを許さないだろう。私は待つしかないのだ。この決闘の終わりを。

一際大きな炎と闇が衝突した時、私はその中心に向かって走り出した。エースが海軍に引き渡される前に、何とか交渉のチャンスを作らなくてはならない。

「待って!」

私が叫ぶと、ティーチとその部下がこちらを向いた。船にいる時とはまるで別人の笑みに、体に悪寒が走るのが分かる。

「名前じゃねェか……金魚のフンみてェにエースにくっついてたが、こんな所までご苦労なこった」
「代わりに私を海軍に差し出して!」

その言葉に、ティーチの手が止まる。これは賭けだった。ウミウミの実を持つ私なら能力でティーチに勝てるかもしれないが、それ以外の部分は負けているしティーチには非能力者の部下もいる。戦ってはこちらが不利になるだけだろう。ならば私が差し出せるものは、自分の能力であるウミウミの実だった。

「海軍に引き渡されたら一生海賊を捕らえ、海楼石を作らされ続ける人生だぞ!? それでもいいのか!?」
「いい」

ウミウミの実の価値はオヤジさんのお墨付きである。そのことはティーチもよく分かっているのか、ティーチはエースを離して私に海楼石の手錠を掛けた。と言っても私に海楼石は効かないのだが、元より反抗する意思はない。

「命拾いしたな」

後にはその言葉とエースだけが残った。私の人生は海軍の独房で終える。それでいいと思っていた。


気付いていたら眠ってしまっていたらしい。黒ひげが気絶させたのか、それとも船の揺れで眠ってしまったのか。目を開けると、見覚えのある光景に私は凍り付いた。そこにあったのは、私が十年以上使用している勉強机と書きかけのレポートだった。船や海などどこにもないし、黒ひげや海軍の姿もない。ポケットからスマートフォンを取り出せば、あの日から数時間経過した時刻が表示されていた。

まさか夢だったのだろうか。そんなはずはない。私は確かにエースに拾われ、白ひげ海賊団にいたはずだ。

ならば何故、私は元の世界に戻ってしまったのだろう。私は呆然とした後、電子書籍アプリを開いてONE PIECEの頂上戦争編を確認した。確かにそこには、エースが海軍に捕らえられ死ぬ様が変わりなく描かれている。私が介入して変わったという様子はない。その時、私は一つの可能性に思い当たった。

私が元の世界に戻ったのは、エースが死ぬという展開を捻じ曲げたからなのではないか。つまりあの世界は、エースが死ぬか、私が消えるか、どちらかなのだ。理解すると同時に私の胸に喜びとも悲しみとも言い難い感情が広がった。エースが死を回避できてよかった。エースが自由に海を生きられるのなら、それ以上のことはない。

でも、と思うと同時に、私の頬を涙が伝うのが分かった。こうしなければエースは生きられないと分かっているのに、それでもエースと一緒にいたかったと思う自分がいる。私は元の世界に戻って初めて気が付いた。私はエースのことが、好きなのだ。