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「アハハ! 順調やな」

そういえばとチャロの話をした時の侑の話をすれば、宮侑は豪快に笑ってくれた。よかった。いくら自分といえど過去のそれは別物のようだ。確かに侑の間抜け顔は腐るほど見てきているが、目の前の宮侑の間抜け顔はなんだか想像できない。

「順調やなて、そっちはどうなん? 少しは元に戻る方法とか思いついたんか?」

一通り笑った宮侑に私は切り込む。宮侑といる事は迷惑ではないが、私の中で何か不都合がある。そう、現実の侑とどう接していいかわからない的な何かが。すると宮侑は当然のような顔をして言った。

「わかるわけないやん。こっちに来たんかて俺の意思ちゃうねんで。戻ろう思ってタイムスリップできたら苦労ないわ」
「まあそらそうやな……」

大人になった宮侑が過去に来たというだけで信じがたいが、好きにタイムスリップなどできたらもう超能力者か何かだ。私の知る侑は良い意味で人間離れこそしていれど、そんな魔法のようなことができる奴ではない。

「だから俺はこの時代の名前目一杯可愛がっとくわ」

語尾にハートマークでも付けるような調子で言うと、宮侑は隣の私に抱きついた。冗談のような口調の通り私が抜け出そうと思えば抜け出せる力の強さだ。しかし私は「な、何」とか「離れろや」とかをもごもごと言いながらされるがままにしていた。

この数日間でわかったことだが、私はどうも大人になった宮侑に弱い。それは普段接する男子高校生とは違う大人の色気があるとか、本人自体がイケメンであることとは別に、自分の未来の恋人だと言われていることがあるのだろう。将来の自分とはいえ宮侑との交際を承諾しているのだし、それなら抵抗したら悪い気がする。同い年の侑と会うたびに気まずいと思ってしまうことに目を瞑ってでも私は宮侑にされるがままになっていた。

すると気を良くした宮侑が、スンスンと鼻を私の髪へ近づける。何だか擽ったいし先程から緊張もしているが私は動かないように努めた。こういう時恋人なら抱き合うのかもしれないけれど、横並びになっている私達が抱き合うには私が体を反転させなければいけないし、第一私はまだ宮侑の恋人ではない。

宮侑は何度も私に頬ずりし、抱きしめる腕を動かし、自身の体を私に密着させた。宮侑は将来の私と普段からそんなことをしているのだろうが、こちらは恋愛経験に乏しい部活生だ。年上の男に迫られたことなど一度もない。緊張で固まる私の様子すら楽しんでいるように宮侑は一度笑った。

「名前、一緒に寝よか」
「はっ!?」

この男は何を言っているのだろう。信じられないものを見る目で宮侑を見るが、本人は本気の様子だ。そりゃあ未来の私とは一緒に寝ているのかもしれないが――なんて一瞬想像してしまった自分が悔しいが――今の私は宮侑の恋人の私ではない。まだ男と寝たこともない、高校生の苗字名前だ。すると思考を読み取ったように宮侑は笑った。

「大丈夫、何もせんて」

そのまま私の腕を掴み、ベッドまで行くものだからおずおずと私は布団の中へ入る。すると宮侑も次いで入ってくるのがスプリングの沈みでわかった。一度も宮侑の方を見られないまま壁を向いている私に一度笑うと、「おやすみ」と声がして頭に軽い感触がした。それが何なのか考えている間に私は自然と眠りに落ちていた。