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 銀時と煎餅布団に包まっている肌寒い夜が好きだ。かぶき町でも最安値に近い私のアパートは粗末なものだけれど、大人二人が事を済ませて眠るくらいのことはできる。銀時の家には少女がいるからと、情事は必ず私の家で行われた。天人の少女がやってくる前から、私は銀時の家に上がらせてもらったことがなかった。多分、私のことを大家さんに見せたくないのだろう。

「最近、ちっとばかし報酬がいいんだ。そしたらお前にもなんか美味ェもん食わせてやるよ」

 天井を見上げたまま銀時は言う。私は銀時の方を見た後、さらに布団に潜り込んで口元を隠した。

「お金持ちになったら銀時、私の所に来なくなっちゃうでしょ」
「ハァ?」
「風俗に行くお金がないから私とするんだと思ってた」

 長年の疑惑をぶつけると、銀時はむきになって否定するでもなく「何でそう考えるかなァ」と頬を掻いた。

「俺、一応アレよ? お前のこと好きよ?」
「証明するものはないでしょ」
「じゃあ今度金が入ったら大金揃えてお前にやるよ。大金が入っても風俗なんか行きませんってな」
「銀時に大金が手に入るわけない」

 仮に手に入っても、銀時ならすぐにパチンコに費やしてしまう。銀時も同じことを思ったのか、「そりゃそうだ」と覇気のない声で言った。結局、愛を証明する手段は金でしかないのだ。何と悲しい話だろうか。銀時が私をただのセフレとして扱っているとは感じないけれど、本気で愛していると言われても信用性に欠ける。愛の言葉に素直にときめくような純粋さはとうの昔に消えてしまった。

「どうしたら信じてくれんの? 全裸で町中走り回ったらいい?」
「それ私に何のメリットがあるの」
「親に会わせるっつっても俺の親なんざいねェしな……幼馴染はテロリストだし……」
「よく部屋借りれたよね、本当」

 私は呆れてため息を吐く。銀時は戦争孤児だが、かぶき町でそれなりに人脈を築いていることは知っている。真選組やそよ姫とまで知り合いだと聞いた時は驚いたものだ。銀時なら、そういった身分証明になるようなお堅い人と私を会わせることもできるはずだ。

「他にいないの? かぶき町で大事な人」
「この町で一番大事なのはそりゃお前よ」

 間髪もなく挟まれた言葉が心臓に悪い。愛の言葉など響かないと思っていたのに、日常会話の中で使われるとこうも効果のあるものなのだろうか。

「もしかしてキマっちゃった? お前の心頂いちゃった?」
「うるさい」

 銀時の気持ちを全て信用したわけではない。だが、銀時を端から疑ってかかるのも、少し悪いかと思うようになった。