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久々のオフを前に、俺は恋人である名前さんと計画を立てていた。もう周りからの目線も気にせず、堂々と二人で弁当を食べている。名前さんは初めからそういうものを全く気にしていないふうなので、俺の方が女々しいのかもしれない。それにしても、俺はこの胸の高鳴りを感じずにはいられない。
「部活がない日が楽しみになるなんて、思ってもみなかった」
俺は思わず言葉をこぼした。バレーを始めた時から、バレーができる日が楽しみで仕方なかった。人間関係が嫌になることはあっても、体育館を使える日は変わらずに待ち続けた。オフの日はじっとしていることがもどかしく、一人でランニングをしていることが多かった。その過ごし方を変えてくれたのは名前さんだった。
「それって楽しみにしてるの私なんじゃない?」
名前さんはしたり顔で聞く。
「そうかもしれません」
名前さんには、中学で何があったかとか、俺がバレーにどれほど情熱をかけているかを話していない。ただ異性として好き合っているというだけで繋がっている仲だ。相手の全てを知る必要はないし、今はこれでいいと思っている。何も知らない呑気そうな顔に、俺は結構救われている。
「今度試合来てください。バレー会場に名前さんがいたら倍幸せなので」
俺が試合を観に来てほしいと言うなんて、結構なことだ。親しい人であればあるほど、見られたくないと思う時期もあった。でも、今は違う。
「ラーメンにハンバーグ載せるタイプ?」
何を言いたいのだろうか、名前さんはからかうように返した。
「美味しそうじゃないですか?」
俺が言うと、名前さんは呆れたように眉を下げる。
「ていうか、名前さんを食べる話はしてないですけど」
「そっちこそ何の話」
俺達はまた弁当を食べることに集中した。いきなり食べ物の話になったからそっちかと思えば、何なのだろう。名前さんはその小さな口で、卵焼きをかじっていた。
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