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「お前はフラッシュモブとかやりそうだから誕生日教えない」

 というのが、佐久早の言い分だった。SNSもある今日日、誕生日を探るのは難しいことではない。しかしこの佐久早という男は、SNSのIDやメールアドレスに自分の誕生日を入れるほど浮かれた男ではなかった。学籍簿を見るか、それとも親族に突撃するか。佐久早は私がこういった行動に出ることを予想していたのではないだろうか。だって、私が誕生日を知ったらフラッシュモブをするくらい好かれていることは知っているのだから。

「特定したよ!」

 誕生日の第一声はそれだった。おめでとうと言うべきだったのかもしれないけれど、私の好意や執念を表すにはこちらの方がいいと思った。

 佐久早は目を細め、じとりとした視線を私に向ける。

「将来お前みたいなファンがついたら地獄だな」

 佐久早は既にバレー界で有名人であり、追っかけのようなものもいた。これから大学やプロでバレーを続けるとなれば、ファンの数はさらに増えるだろう。

「まあどうせ来年からは祝えないんだし」

 佐久早の誕生日は三月後半だ。二年の今は祝えるものの、来年はもう卒業しているだろう。これが正真正銘の最後だ。

「祝えよ」

 佐久早は偉そうで、それでいて我儘を言う末っ子のような目で私を見た。

「私みたいなファン嫌なんでしょ?」
「ファン以外になればいいだろうが」

 誘導尋問されている気がする。こうして佐久早は私から好きだという言葉を引き出そうとしているのだ。そうするくらいには、佐久早も私のことを好意的に思っているのだろう。だからこそ、一方的に言わせようとするのが気に入らない。

「じゃあ、友達で」

 私が言うと、佐久早は唇を尖らせて「まあいい」と言った。どうせあと一年あるのだ。その中で決着がつかなかったとしても、佐久早は強制的に次のラウンドに引きずり込むに違いない。あまりに待たせるようだったら本当にフラッシュモブをするからな、と私は密かに誓った。