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 木兎と赤葦と三人で集まるのは半年ぶりのことだった。連絡はとっていたし、木兎の活躍を一方的には見ていたものの、直接顔を合わせるとなると久しい。学生時代と変わらない感覚で乾杯をし、私達は焼き鳥にかじりついた。店内のテレビでは、バレーとは違うスポーツが中継されていた。いくら木兎が目立つとはいえ、酒が入った中ではみんな鈍くなるだろう。そう思ってか単に面倒なだけか木兎は変装をしていない。だからというべきか、先程からしきりにこちらを見てくる女性二人連れがいた。

「あれって……」
「女の人連れてない?」

 木兎のファンだ、と察知する。私と赤葦が横に並び、木兎は対面にいたが、木兎の真正面には私がいた。そう思われても無理はない。私は赤葦の腕をひっつかみ、彼女達に向けて笑顔を作った。

「私はこっちの彼女ですから」
「どうも」

 状況を悟ったらしい赤葦が頭を下げる。女性達は気落ちしたような顔をして、それぞれ自席についた。

「お前ら何やってんの? 全部食っちまうぞ!」
「木兎の危機を救ってたの」

 と言っても木兎は思い当たることがないようで、呑気にフライを食べている。結局その日、それ以上好奇の視線を感じることはなかった。店を出た帰り道、酒が抜けたのか赤葦が冷静に語りだす。

「やっぱり木兎さんのために普段からこうしていた方がいいと思うんです」

 赤葦は私の腕を組んだ。酔いが覚めたと見せかけて、実はまだ酔っているのだろうか。強引な手口が赤葦らしくない。

「三人で会わなければいいんじゃない?」

 私が言うと、カウンターのように赤葦が切り返した。

「名前さんに会えないのは無理です」

 そこまで言えるのに何故好きだとかそういう言葉は出てこないのだ、と思いかけて、もう純粋な告白を経るような歳ではないかと思い出す。学生時代の赤葦にそれほどの勇気があれば、私達は付き合っていたかもしれないけれど。

「じゃあ付き合ってるってことにするか」

 私も酔いを自覚したまま言うと、隣で赤葦が小さく頷いた。

「赤葦達付き合ったの?」
「そうです」
「ふーん」

 大騒ぎしそうな木兎が、ここでは大人しくなっている。木兎も酔っているのだろう。三人全員酒にまみれて交わした会話だけど、多分明日の私は覚えている。そして、赤葦は二人でのデートプランを決める連絡を寄越すのだろう。そうしたら私にも実感が湧くのだろうけれど、今はまだない。