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 嘘をついてみよう、と思ったのは小さな好奇心だった。自分でも、(サッカーに対しては)真面目腐ったつまらない性格をしていると思う。冗談を言うこともほぼなく、恋人である名前とはいつも愛想のないやりとりを交わしている。たまにはからかってみるのもいいかもしれない。俺はベッドの中で体勢を変え、名前の方を向く。

「お前が浮気だって言ったらどうする?」

 ピロートークはあまりしない方だ。名前はひと眠りする気だったのか、眠そうな目をしていた。気だるげな瞳が俺を捉える。

「浮気じゃないの?」

 それがエイプリルフールのお返しなどではなく、本気でそう思われているのだということに俺は思い至った。何故なら、俺は日本人がそうするように告白や交際の申込の段階を踏んでいないからだ。しかし、俺が本気で名前を好きでいることは伝わっているはずである。

「本気に決まってんだろうが。俺が今までどれだけ……」

 らしくもなく、愛の言葉を語ろうとする。それを遮って、名前が合点したと言うように表情を変えた。もう眠気はどこかへ飛んだみたいだ。

「あ、エイプリルフールか」

 確かにその通りなのだけど、嘘は好きだということではなく浮気だという部分だ。非常にまずい状況になった、と俺の脳内は大混乱だ。しかし顔はいつもの仏頂面なのだから、大したものだと思う。こういうところが、名前に本気だと伝わりづらいゆえんなのだろう。

「じゃあ明日も同じことを言うか試してみるか? 今日泊まってけ」

 エイプリルフールでなくても。行為中でなくても好きだと言ったら、名前も流石に信じるだろう。明日も会う約束はしていなかったけど、俺は無理に泊まらせようとした。それをどう思ったのか、名前は艶美に目を細めた。

「お誘い? 嬉しい」

 俺の愛を伝える儀式も、もう一回戦しようという性欲の権化に見えているようだ。俺にそんなつもりはない。むしろ名前がいやらしい女なのではないか、と自分の女ながら白い目で見た。

「……夜は人生ゲームをする」

 とにかく、健全に過ごすにはこれしかない。名前は不思議そうな表情をしていたが、「わかった」と言って俺の頬にキスをした。嬉しいけど、今はそういうことをしたい気分ではない。もどかしい感情の中を、俺は揺れている。