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「付き合ってほしいんだけど」

 その言葉にどこへ、と返すほど純粋ではなかった。研磨は落ち着かなさそうに、髪の毛を手でいじっている。研磨が恋愛をすることもあるものだ。そう考えた時、私は一つの可能性に思い当たった。研磨はユーチューバーである。ついでに、会社も経営している。これは新しい経営戦略で、研磨はカップルチャンネルを作ろうとしているのではないか。そういえば、前にコヅケンのリアコのようなファンが増えて面倒だという話も聞いたことがある。

「まあ私可愛いもんね……」

 自分で言うのもなんだが、私は動画撮影に耐えられる顔をしていると思う。少なくとも研磨やクロの前では、そういった冗談が言える。

「それはそうだけど、見た目だけじゃない」

 研磨はまだ居心地が悪そうな顔をしていた。社長といえど、やることは恋愛シミュレーションのようなものだから緊張があるのだろう。そういえば、研磨が誰かと付き合ったという話を聞いたことがない。

「任せといて! リアクション芸得意だから」

 私が言うと、研磨は眉をひそめて怪訝な表情を作った。

「なんか誤解してない?」
「カップルチャンネル作るんでしょ?」

 長い溜息が吐かれ、心底呆れています、という表情をされる。カップルチャンネルを作るのが違うのなら研磨は本当に私を好きなことになるのだけど、よく好きな人にそんな表情ができるものだと思う。いや、研磨が私を好きかどうかはわからないが。

「何もかも違う。YouTubeに載せられないようなこともするからね」

 それはつまり、センシティブなことなのだろう。

「Pornhuberになるってこと!?」

 そう答えた私に、研磨は「配信から離れて」と落ち着かせるように言った。研磨は社長や有名配信者である前に一人の男性なのだということを、私はすっかり忘れていた。研磨は自分の手で、それを私に知らしめたのだった。