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 冴に恋愛相談をするのは大変不本意だが、結果としてアドバイスを貰ってしまったことはある。どうしてか俺の気持ちは冴に知られていて、俺は奥手なのだろうと思われていたのだ。まあ、幼馴染を言い訳にして告白できていない状況を考えればその通りである。

「お前はまつ毛が長いんだ。そこを売りにしていけ」

 確かにまつ毛の長さは、俺の周りにつきまとってくる女子に言われることだった。果たして名前も俺のまつ毛を気に入っているかはわからないけれど、アピールするしかない。俺だって名前に自分のことをいいように思われたいのだから。

「目を閉じて五秒待て。それでまつ毛の長さはよく伝わる」

 名前と偶然出会った帰り道、俺は路上で立ち止まった。どうしたのかと言いたげに名前が俺の方を向く。それを確認して、俺は目を閉じた。本当に名前が俺のまつ毛を見ているのか、変に思われていないか、不安になってくる。脳内のカウントダウンはやけに遅く感じた。あと二秒、一秒。

 目を開けた時、至近距離に名前の顔があった。どういうことだ。まつ毛を見ているのではないのか。

「おっ……」

 俺は小さく声を出した。すると名前は我に返ったように、背伸びをやめて俯いた。

 明らかに照れている。恥ずかしいようなことをしたのだ。つまりは――キスだ。

「クソ……」

 冴は最初からこれを狙っていたのだ。どうして気付かなかったのだろう。冴にも、自分にも腹が立つ。その横で、名前が真っ赤になっているのが見えた。

「俺はキスするのが嫌なんじゃねぇ」

 キス、と口にするのは抵抗があった。名前は体を揺らしたし、これで名前に恋愛感情があるのは確定してしまった。ならば、俺もその気持ちを見せるしかない。

「クソ兄貴のせいでするのが嫌なんだよ」

 俺は名前の肩を掴み、自分の方を向けさせた。戸惑うような、期待するような名前の瞳と目が合う。でもその目はすぐに閉じられて、名前のキス顔が見えた。

 目を閉じた表情を晒すのは、結構恥ずかしいものだ。と、名前を見ていて思った。でもこれでお互いに晒したのだから、おあいこだろう。俺は背を屈めて名前に顔を近付けた。