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※高専

 任務で行ったのは、地方の小さな神社だった。こういった場所には呪霊が湧きやすい。とはいえ、五条がいる以上私の出番はない。

 五条が瞬く間に呪霊を払い、私達は山を下るでもなくぼうっとしていた。廃れた神社の土台に腰掛け、周りの木々を見ていると、まるで異世界に来たかのように思える。それでも私達がいるのは現実なのだった。あと少ししたら補助監督と合流しないと、流石に不審に思われるだろう。

 残り時間が少ないことを五条も察したのか、「お参りしようぜ」と腰を上げた。私達は今にも破れそうな鈴緒を揺らし、古びた鐘の音を聞く。こういった時、礼をするのが先だっただろうか。それとも頭を下げるのが先だろうか。隣を見れば、五条は真剣な顔で何かを祈っていた。なんとなく見てはいけないものを見てしまった気がして、私は顔をそらす。

「何お祈りした?」

 五条は軽い調子で聞いた。別にこんな古びた神社に大した力もないだろうに、私もしっかりお祈り事をしていた。

「これから、上手くいきますようにって」

 高専を卒業して一般人になっても。呪術界を抜けることに決めた私を、五条は今まで追わなかった。けれど、それは興味がないということではなかったのだ。

「五条は?」

 五条は、サングラスの向こうの目から私を見下ろした。青い目が透けているのに何を考えているのかわからないような、不思議な目だった。

「お前の願い事が絶対に叶わないようにって考えてた」

 私の呼吸が止まる。五条が初めて見せた、私への感情だった。やめるなとも、置いて行くなとも言わなかった。五条はただ隠していただけだったのだ。

「ずっとそばにいてよ」

 そう言う口調は柔らかい。少し前の五条からは想像できないくらいに。五条は、夏油の離反を受けて変わってしまった。私まで呪術界を抜けたらさらに影響を与えるとまでうぬぼれはしないけれど、五条にとって置いて行かれることはトラウマなのだ。

 ごめんともお願いとも言えないまま、神社の前に立っていた。青葉に止まる虫達の鳴き声がする。私達は二度と今この瞬間に戻れない。夏油がいた頃にも戻れない。間違えたとしても、進むしかないのだ。