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 俺は告白されるのが苦手だ。調子に乗っていると思われるかもしれないが、女子に断りを入れるというのは本当に気を遣うのだ。俺が言った途端に泣き出す奴。何故か被害者ぶってくる奴。その後のトラブルになったことも数知れずだ。女子の好意はできるだけ避けているが、それでも逆らえないものはある。俺は女子の呼び出しをすっぽかすほど人間を捨てていない。

「佐久早くんが好きなの」

 やはりこれか、と俺は内心眉をしかめた。返事は、断るに決まっている。女子から告白されるのは苦手なくせに、ちゃっかり好きな相手に告白した俺には彼女がいた。けれどその彼女は付き合っていることを隠したがるので、表立って恋人がいると言うことはできない。

「好きな人がいるから」

 嘘は言っていない。これで諦めてくればいいのだが、目の前にいる女子は立ち去る様子がなかった。

「それって苗字さん?」

 俺の体がわずかに揺れる。それは俺がわかりやすいのか。苗字がわかりやすいのか。多分俺なのだろう。女の勘はやはり侮れない。何も言わずにいる俺をどう思ったのか、女子は言葉を続けた。

「好きなら告白してみたらいいじゃん。それでフラれたら私のところに来ればいいんだし」

 何故、そういう展開になるのだろう。女子は俺のことを好きだったはずが、俺の恋を応援するキューピッドのようになっている。俺を玉砕させる気なのか?

「いや、」
「やってよ」

 俺は女子に逆らえない。大きい体に生まれてしまったために、圧倒的に力で劣る存在に、最大限気を払う生活となってしまった。

「はい……」

 こうして俺は、付き合っている相手に俺を好きな女子が見守る中告白する状況になってしまったのだった。


 一番の懸念は苗字の反応により、俺と付き合っていることがバレてしまわないかだ。苗字には普段らしく、女子には告白らしく映らなければいけない。できるかそんなこと。俺は半ばやけになって苗字を呼び出し、近くの柱の陰に女子の存在を感じながら向き合った。

「苗字、お前のことが好きだ」

 よくある告白のセリフ。でも苗字にはただ愛を囁いたように聞こえるかもしれない。後ろでギャラリーの女子が盛り上がっているのが聞こえた。何で増えているんだよ。

「え? 今日雨降る?」

 せめて苗字が照れてくれればそれらしく映るだろうに、苗字は茶化すような対応だった。すべて普段から好きだと言っていない俺のせいだとわかっている。

「お前と付き合いたい」
「今更でしょ」

 俺の告白は、流されているように映っているのだろう。苗字の言葉は俺に気があるようにもとれる。このままはっきりと決着がつかなければ、後ろの女子はキスをしろとでも言いかねない。彼女と告白してきた女子に挟まれて、俺の神経は摩耗している。誰か助けてくれ、と願ったが、すべて俺が招いた結末なのだった。とりあえず、この難局を乗り越えたら苗字に付き合っていることを公開しようと持ち掛けてみようと思う。また新たなトラブルが起こるだろうが、公衆の面前でキスを要求されるよりはマシだ。