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※プラス要素薄い

 この歳になって告白というものをするとは思わなかった。しかしそこは流石に大人と言うべきか、付き合ってくださいと頭を下げるような真似はしなかった。酒を飲みながら、付き合わん? と会話の一部のように言った。だが名前は、すぐに返事を寄越さなかった。

 名前が考えているのは、俺と付き合うか、付き合わないかではなく、どうやって自分の気持ちを説明するかなのだろう。名前は変に律儀なところがあったから、きっとどちらにせよ彼女なりに言葉を尽くすのだろうという予感があった。

 俺が告白をしてからグラス一杯分の酒を飲んだ。その間名前はずっと考えているようであった。逆に言えばそれくらい俺は名前から尊重されているのだ。たとえこの後フラれるにしても。

 長い沈黙を置いた後、名前はようやく口を開いた。名前の声は店内の音楽によく馴染んでいた。

「もし侑と付き合った後侑を嫌いになるようなことがあったらさ、バレーの試合を観るのも嫌になりそう」

 耳がジャズの音楽を拾う。頭は妙に澄み渡っていて、この後何と言われるのかわかっていた。けれど何も口を挟めないでいた。

「私侑よりバレーの方が好きなんだよね」

 そこに申し訳ないという響きはなかった。ただ純粋に、好きなものを語る子供のような口調だった。

「俺もそうやわ」

 諦観、無力感、それからバレーへの愛。名前と付き合ったところでバレーより優先させるはずもないとわかっているのに、どうして名前と付き合おうなど言ったのだろうか。もしかして名前は、初めてできたバレーに限りなく近い位置にある愛の対象なのではないか。

 思ったところで既に遅い。名前は傷付いた顔も傷付けた顔もしておらず、このままだと友達を続行されそうだ。勘弁してくれ、と思うけれど、俺は名前に弱いから友達を続けてしまうのだろう。いつかバレーをしなくなる日が来たら、二人の関係が変わるのだろうか。今はまだわからない。沈黙を守るために、俺は酒を喉へ流し込んだ。