▼ ▲ ▼
クラスメイトの佐久早くんの応援に来たのは、何も期待がないと言えば嘘になる。教室で段々と仲良くなり、佐久早くんのことを異性として見るようになった。佐久早くんをもっと知りたい、私も異性として見られたい。そんな思いで体育館を訪れる。選手は試合の合間のようで、ホールに目立つ黄緑色が見えた。佐久早くんは、その中でもさらに端の方にいる。見るからに眉をしかめ、窮屈そうにしている。
「もしかして具合悪い?」
マネージャーでもない私がかける第一声としてそれは間違っていたかもしれない。しかし、佐久早くんは普段より何層か低い声で吐き出した。
「人のいない所へ行きたい」
私の腕を掴んで、移動する。
私は状況についていけないまま佐久早くんに引かれていた。人のいない所に行きたい、とはつまりそういうことではないか。佐久早くんも私に気があったのか。それにしては何故大事な試合の日に、という点は引っかかるのだけど。
佐久早くんは人の多いホールを抜け、非常階段に来ると息を吐き出した。今まで溜めていたものを全て吐き出すように。
「俺は人混みが苦手なんだ」
あ、はい。言葉にしてはそんな気持ちだ。私と人前ではできない何かをするのではなく、ただ単に人がいるのが嫌だったらしい。
「私はいいんだ」
拗ねた調子で言うと、佐久早くんが猫背になって答えた。
「応援に来てくれたから」
少しは、感謝されているのだろうか。恋愛を匂わけたり、落胆させたり、また匂わせたり。佐久早くんといるとジェットコースターにでも乗っている気分だ。本当なら告白して気を動転させてやりたいけれど、試合前の今私が言えることはこれだけだ。
「頑張って」
/kougk/novel/6/?index=1