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 クラス替えが過ぎ、体育祭が過ぎた。打ち上げをする空気の中、これまで一定の距離を保っていたクラスメイトとの連絡先交換が行われる。私はそれほど目立つ方ではないが、クラスメイトの半分近くの連絡先を手に入れた。これで打ち上げの際困ることはないだろう。

 ほくほくとした気持ちで携帯を手にしていた時、不意に携帯が誰かに奪われた。

「あっ」

 侑だ。侑の連絡先は誰もが知っているから、わざわざ交換はしなかった。どうせ一斉メールの宛先に入っているだろう。侑は私の携帯をいじり、しきりに指を動かしている。

「治の連絡先欲しいんやろ」

 そういえば、侑には治くんのことが好きだと言ってあったのだった。正確には侑に言ったのではなく、その場の流れで侑が聞いてしまったのだが、侑が協力をしてくれるのは意外だった。てっきり、喧嘩ばかりの二人は片割れがモテることを面白くないと感じるのだと思っていたから。

「何で侑のも登録してあんねん」

 電話帳を見て顔をしかめると、侑は憎たらしい笑顔を浮かべた。

「アホ、相談用や」

 などと言って、本当に相談に乗ってくれることがあるのだろうか。どうせ無視されて終わる気がする。

 私はとりあえず治くんにメールを作成した。

「宮くん、連絡先交換してくれて嬉しいです。もっとお喋りしたいです。よろしく」

 それから、ドヤ顔をしている侑に向けてもメールを作成した。

「お前と話すことはない」

 送信すれば、侑は愉快そうな笑みを浮かべている。罵倒されて何が楽しいのか、変な奴だ。

「名前ー、次体育」
「あ、うん!」

 私は携帯を置いて更衣室へ急いだ。教室の中で、残された侑は画面を満足気に眺める。そこには、媚びた名前のメールがある。

「治にはこんなにシッポ振るんやな」

 その一方で、別の教室にいた治は携帯を見て首を傾げた。

「このメール、誰やろ。アドレスからして苗字さんかな。俺嫌われとるんか」

 彼らは同じ「宮」である。しかし侑は名前の携帯に宮侑を治として登録し、宮治を侑として登録した。名前はまだそれに気付かない。気付いたら名前は、侑に怒るだろうか。それとも侑の真意を悟るだろうか。