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 登校した時から、周囲の視線を感じた。どこか腫物に触るような、遠巻きな視線だ。この感覚には覚えがある。飛雄と付き合うと周りに公表した時、同じような目に遭った。飛雄は学年でも有名人なのだ。

「付き合ってるって噂されるの嫌なんだろ。別れてるって嘘ついといた」

 どうしたものかと尋ねた時、飛雄はけろりと吐露した。確かに噂をされるのが嫌だ、目立つのが嫌だとは言ったが嘘を言えとまでは言っていない。どうして飛雄というのは、こうも極端なのだろう。

「噂されてるのは変わらないじゃん! ていうか余計目立ってるし!」

 廊下の片隅で口喧嘩をする私達を見守る影があった。恐らく飛雄のファンの子達だ。

「本当に別れたの……?」

 飛雄と別れたと噂されるのは、彼女として不服な部分もある。けれど、これを機に噂されなくなるのなら、それはそれでありがたいかもしれない。私は飛雄に囁いた。

「私を滅茶苦茶に扱って」

 こんな彼女に対するような距離ではなく、雑に扱えば別れている噂に信ぴょう性が増すだろう。

「お、おう……」

 飛雄は歯切れ悪く言った後、私を壁に追い詰めた。手を壁について、いわゆる壁ドンというやつだ。私は目を丸くして飛雄と壁の間にいた。ファンの女の子達は、悲鳴を上げて逃げて行った。

「まだ別れてないじゃん!」

 こちらが悲鳴を上げたい気分だ。これで雑に扱っているつもりなら、今まで壁ドンをしている映画やドラマをどういうつもりで見ていたのか。見ていないから、恋愛に対する知識がこうも乏しいのか。そういえば飛雄はこういう乱暴なことはしなかった。それが飛雄の優しさだと知りたくなかった。

 そうしている間にも視線は集まり、私達は目立っていく。私は力任せに飛雄を突き飛ばし、教室へと駆けた。飛雄相手に噂をなんとかしようなんて思う方が間違っていたのかもしれない。私は飛雄と付き合った時点で、そういう運命なのだ。