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ブルーロックの僅かな休み期間、苗字に呼び出された。そもそも俺が貴重な休みを会いに使う時点で好意はあるわけで、突然の呼び出しに期待していないと言ったら嘘になる。待ち合わせの公園に着くと、苗字は笑顔で何かを差し出した。それは俺をねぎらう何かではなく、各教科のノートだった。
「お前ノート全部とってたのか」
言いながら、俺は受け取る。どの教科も丁寧に板書がまとめられている。部活の公式戦の日、俺は苗字にノートを借りていたことを思い出した。あの頃はまだ、学校でサッカーをするつもりだったのだ。
「俺はブルーロックに残る。学校にはもう行かねえ」
サッカー人生をかけた戦いに挑むと決めた。学校で勉強なんて、そんな生ぬるいことはしていられない。目の前にいる苗字が自分の中の甘えの象徴のように見えて、好きなはずなのに憎らしくなった。
「心残りはないの?」
そう言う苗字は、俺のことをわかっているかのようだ。どこかですべてを捨てきれていない俺の弱さを。
「……ある」
俺は俯いた。本当ならここで告白でもするべきなのだろうけれど、サッカーに人生を捧げると決めた以上恋愛などしていられない。青春ごっこは終わりなのだ。だから、苗字とはこの空気だけで終わらせる。苗字にだって、俺が好きだということは伝わっているだろう。
そう考えていた時、苗字はまるでお姉さんのような顔をして腰に手を当てた。
「部活のメンバーには私から話しておくから」
「は?」
「部活のサッカーが懐かしいんでしょ?」
どうやら、俺の心残りは部活だと思われていたらしい。冗談ではない。苗字の前でなりを潜めていた俺の黒い部分が、熱く燃え上がる。
「俺はあんなままごとサッカーどうでもいい」
「凛くん?」
俺の態度の急変に、苗字は驚いているようだ。俺はゆらりと苗字に寄った。先程、恋愛などしている暇はないと言った。では、普通の恋愛でないなら。一方的に俺が苗字を搾取する、不自由で身勝手な関係なら。
「かまととぶってて悪かったな。俺はこういう奴だよ」
俺は苗字の腕を引き、突然に唇を奪った。付き合おうなんてはっきりとした言葉は言ってやらない。俺の一番はサッカーだ。だけど苗字も捨てる気はない。どちらも叶えるためなら、ずるい男にだってなってやる。
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