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 昼休みに自動販売機の前で待っていると、やはり影山君はそこへ来た。既に飲み物を買っているのに立ち止まっているのは、私と話す気があるからだろう。私は勇気を出し、用意していた言葉を口にした。

「今度試合でしょ? 勝ったらご褒美あげるよ」

 影山君を好きでいる、そして恐らく影山君も私を好きでいる中の、精いっぱいの歩み寄り。要は影山君の試合に乗じてお近づきになろうということだ。影山君は鼻の下を伸ばすでもなく、至って真面目に紙パックの牛乳を飲んでいた。

「ご褒美とかなくても試合は真面目にやります」

 本当に私が好きなのか、と聞きたくなる。いや、聞いたところで私が恥をかくだけなのかもしれないけれど、彼は確かに私を好きなはずだ。それが据え膳を食わぬどころか突き返すような対応をされ、私は面食らった。影山君はバレーに対してクソがつくほど真面目だったのだ。私は肩を落とし、小さくこぼした。

「付き合ってあげる、って言いたかったんだけど……」
「普通に言ってくれればいいじゃないですか!」

 流石部活生、と言いたくなるような声の大きさだった。多分部活中はこれくらいの大声で会話しているのだろう。しかし今は部活ではないので、そんな大きな声を出さなくても聞こえている。

「恥ずかしいんだよ! なんか影山君がオープンなせいで私から告白する感じになってるし」

 付き合うことに食いつくくらいなら告白してほしい。そういう意味での吐露だったのだが、影山君はあくまで影山君だった。

「俺のこと好きならミョウジさんから告白してくださいよ」

 そう言う様子は、まさしく王様のようだった。影山君に言ったら怒られてしまうだろうけれど、彼はバレー以外でも圧政をしくところがあると思う。

「もうそんな感じになってるじゃん」

 私が言うと、今度はバカの部分を発揮した。

「はっきり言ってもらわないとわかりません」

 王様で、バカで、バレー一筋の影山君。そんな彼に恋をした時点で、私の前途は多難だったのだろう。私はため息をつきながら、告白の場所が自動販売機前というのはいいのか、と考えていた。