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 何もかも無気力な凪くんが私とのデートに積極的になることは、かなり意外だった。顔を合わせるたびに人目を憚らずデートに誘う凪くんに屈して(正確には私まで白宝の不思議枠となるのを避けて)一日のデートをオーケーした。表参道、原宿、どこへ連れて行ってくれるのかと思いきや、行先は白宝の寮だった。「信用していいんだよね?」という私の言葉に、凪くんはピースで答えた。
 もし凪くんが妙な気を起こしたらその場で帰るから、という条件つきで私は凪くんの家を訪れた。凪くんの家は意外にもシンプルだった。凪くんは客に茶も出さず、ベッドで寝転んでいる。家主としてこれはいいのだろうか。凪くんの好きなゲームをしているわけではない。というか、全体的に怠そうだ。

「凪くん……もしかして熱ある?」
「うん」

 当たり前のように言った凪くんに、私は毛布を叩きつけるようにして凪くんにかけた。

「うんじゃないでしょ! デートとかしてる場合じゃないから」

 一体何故熱のある日にデートなどしようと思ったのだろう。看病目当てと言うには熱があることをアピールしてこなかった節がある。熱があっても私とデートがしたかったのだろうか、と思うと、心の奥底が揺られる。

「じゃあ名前ちゃんが看病してくれる?」

 そうやって大きな目を揺るがせて――熱があるのだから本当に涙で膜が張っているように見えた――おねだりすることで、今まで数多の人を言う通りにしてきたのだろう。玲王くんなどは、「しょうがねえな」と言って何でもしてしまいそうだ。

「これ狙ってた?」

 凪くんは熱があっても私に会いたかったわけではなく、熱があって看病してもらうシチュエーションに上手く漕ぎつけたかっただけなのではないだろうか。わざと熱を出したわけではないのだろうが、体調と私を利用したのは間違いない。凪くんは素知らぬ顔で机の上のメモを指さした。

「いいよ、嫌ならそこにある連絡先に電話してくれれば親来るから。俺の親に挨拶するか俺を看病するか好きな方を選んで」

 私は凪くんを侮っていた。一回デートして終わり、なんていう甘い男ではなかったのだ。私は付き合ってもいない状況で親に挨拶するか(つまり限りなく恋人に近い関係性として親に認められるか)、凪くんを甲斐甲斐しく看病するかという二択を迫られている。一応人間としての良心がある以上、凪くんを放置することはできない。私はすっかり凪くんの策にはまってしまったのだ。

「どっち?」

 そう言う凪くんは子供のようなのに、悪魔に見えた。