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※浮気ネタ

 南雲さんの仕事内容について詳しく聞いたことはなかった。殺し屋だということを一般人の私に話しているのだ。機密情報を漏らして私を巻き込んではいけないとか、何かあった時に守れないという心配をしていたわけではないのだろう。私は南雲さんのしている仕事にあまり興味がなかった。聞いたところで血生臭いものだと思っていたから。ただ、これは話が別だ。

「南雲さんってハニートラップしてないの?」

 できるだけ声が上ずらないよう、慎重に尋ねた。南雲さんは手のひらでサイコロを弄りながら、気楽な笑顔を見せた。

「それは諜報科がやることでしょ? 僕は暗殺専門だからそんなのいちいちしないよ」

 私は諜報と暗殺の違いも知らなかった。暗殺をするからには――ほの暗い世界に身を置くからには、不貞の一つや二つしていると思っていたのである。要するに、南雲さんは仕事で浮気しているものと決めつけて浮気していた。けれど、それに気付かない南雲さんではないと思うし、何も言ってこないならいいのではないか。

「そうなんだ……」

 できるだけ神妙にならないよう、私は相槌を打つ。南雲さんは私にあまり深く関わらないと思っていたけど、結構深入りしているのかもしれない。今日だって、最後に会ってから一週間も経っていない。

「でも僕って諜報科の出身だから情報収集はすごく得意だよ? 特に好きな人のことはね」

 心臓が大きく跳ねた。南雲さんは私のしていることを見透かしている。そしてやはり、浮気されていることを不満に思っていたのだ。

「なんか言うことあるよね?」
「すみませんでした……」

 南雲さんが嫉妬らしきことをしていることに僅かな驚きと違和感を覚えながら、私は南雲さんの腕に締め付けられた。

「許さないよ〜」

 そう言うくせに、顔は笑っている。私達はすぐに切れる関係にしかなれないと思っていたのに、案外そうではなかったらしい。南雲さんの友人で、結婚して子供を生んだ人がいるという話を思い出した。そこまで行くかはわからないけれど、私達は普通に付き合っているのだ。今更ながらに実感して、心の奥がほかほかと落ち着かない気持ちになった。