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 凪に勉強の危機が訪れたのは一学期の終わりのことだった。元から頭脳明晰なのに面倒がって勉強をしない凪だ。今まではそれでよかったのだが、サッカー部に入った今、赤点をとることは大問題になった。合宿に行けなければ玲王くんも困る。補習になれば凪も困るだろ? との説得で凪は勉強会を了承した。そしてそれは何故か、私の部屋で行われている。

「本当名前の部屋って自習室って感じー。ゲームもテレビもないしつまんないから勉強捗る」

 目の前でテキストを開く凪を見て、私は苛立ちを感じずにはいられなかった。普段からつるんでいるとはいえ、年頃の男女が同じ部屋にいるのだ。少しくらい意識するのが礼儀というものではないだろうか。そもそも何故私が凪の勉強係に選ばれたのかもわからない。気付いたら私が専門のようになっていて、当たり前のように私の部屋に上がり込んでいた。要は私だから何も起こらないと舐めているのだ。

 凪を好きなわけではないが、高校から一緒にいる身として意識はしていた。それがこうも一方的なものとなると、悔しくなるのも必定だ。

「少しは男女として意識した?」

 私は凪の頬にキスをした。凪のことだから、「え、何?」と言いながらそのまま問題を解くのだろうと思っていた。ちなみに今のところ全問正解だ。

 凪は頬に手を当て、意外そうな顔をして私を見ていた。そうも新鮮に驚かれると、私の立場がなくなる。

「合意ってことでいいんだよね?」

 凪は私の上に覆いかぶさった。はめられた、と思った。凪はとっくに私のことを意識していたのだ。それを私がしていないと勘違いして、余計なことをしてしまった。結果的にオーライかどうかはわからないけれど、今私の胸は高鳴っている。凪の勉強が遅れたら、二人で玲王くんに謝らなくてはならない。教科書が閉じる音が、小さく響いた。