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※2024/5/6微妙に本誌バレ

「南雲さんって本当に南雲さんだったんですか!?」

 机の上に用意された紙を見て声を上げる。今私が目にしているのは、南雲さんの戸籍に関わる正式な書類だ。その苗字欄にはきちんと「南雲」と書かれていた。偽名ではなかったようだ。

「そうだよ、僕嘘なんかついたことないもん」

 南雲さんはあっけらかんと言ってみせる。嘘をつけ、と思わず言いたくなるけれど、南雲さんは意外にもオープンだった。殺し屋であることだって最初から言っていた。でも、殺し屋であるからこそ、本名など名乗らないはずだと思うのが人間ではないだろうか。

「みんなに南雲って名乗ってましたよね」
「苗字くらい知られたところで大したことないからね」

 私は南雲さんのことを何も知らないのだと思っていた。南雲さんと近付いてからは、私だけが南雲さんのことを特別に知っているのだと思っていた。けれどそうではなかったのだ。南雲さんは隠す気などなくて、すべての人に正直だった。

「じゃあ私はみんなが知ってる南雲さんしか知らないんだ……」

 私が言うと、南雲さんは眉を下げて私を覗き込んだ。

「名前ちゃんしか知らないことはたくさんあるでしょ?」

 そう言われると、南雲さんと寝た時のことを思い出す。私しか経験がないとは思わないけれど、私にだけ見せた表情はあるはずだ。私の心がぽっと温かくなる。

「ちなみに名前を教えるのはこれで四人目」

 南雲さんは名前の欄に目をやった。そこには、私の知らなかった南雲さんの下の名前がある。正真正銘、私が南雲さんに認められた証だ。

「よろしくね、奥さん」

 そう笑う南雲さんを見ていたら、私は今まで悩んでいたことがどうでもいいような気がした。とりあえず「南雲」は本名なので、呼び方を変えなくてはいけない。婚姻届に書かれた名前を見て、私は小さくはにかんだ。