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「何で片思いって言ったの?」

 放課後の教室の片隅にて、私は角名くんに詰め寄っていた。余裕がない私に対して、角名くんはスマホ片手に視線を寄越すのみだ。どうでもよさげだった目の色が変わり、ふ、と小さく笑った。

「だって、苗字さんから好きって聞いてないから」

 私達は好き合っている仲だと思う。というのは、決して自意識過剰などではない。角名くんに好き、と言われて私も頷いた。私達は両想いで、付き合っていると思っていた。けれど角名くんは、クラスの女子に付き合っているのかと聞かれて「俺の片思いだよ」と答えていた。

 私への注目は変に集まっているし、彼女持ちだと思われていた角名くんがフリーだった事実に女子はざわめいている。片思いだとしても、私程度なら角名くんの想いを上書きできるだろうとでも考えられているのだろう。私の焦りは増す一方だ。角名くんはわかっていたかのように、スマホを口に当てて上品に笑ってみせる。

「俺と付き合いたいなら、苗字さんから好きって言って」

 ああ、どうしてこんなに緊張するのだろう。私は角名くんから好かれている言質があって、世間一般の告白よりもだいぶ簡単なものであるはずなのに。角名くんの試すような目が、私を捉えて離さない。

「好き」

 口の中で転がした言葉は、思いのほか甘ったるかった。角名くんは「正解」と言い私の手を握った。少し離れた所から、女子が私達を見ているのがわかる。羞恥でどうにかなりそうな中で、幸せに目が眩みそうだ。一筋縄ではいかない角名くんを手に入れた。いや、手中に納まったのは私の方かもしれない。角名くんを見ていたら、なんとなくそう思った。