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「見て。パワーストーンなんだって」
放課後の教室は不思議な静けさがあった。活動場所が交代制の部活生だけが教室に残る中、私は後ろの席の佐久早にストラップを見せつける。佐久早は案の定と言うべきか、苦い表情をした。私とて佐久早が運や何かを信じているとは思わない。しかし、ここまで予想通りの表情をするとは思わなかったのだ。
「パワーストーンとか何の意味があるんだよ。自分の努力で勝ち取ったものしか価値はない」
お前風水とか信じてるタイプだろ、と佐久早は告げた。努力しか信じないのはストイックな佐久早らしい考えだ。けれど、偶然やってくる幸運はあると思うし、そういったことを寄せ集めたいと思うことは悪くない。
佐久早に一泡吹かせてやりたい。その思いと、女子として佐久早を悪くないと思っている心が交差する。
「じゃあこれは?」
私は人目を忍んで佐久早の頬にキスをした。佐久早は体をびくりと反応させたが、決して嫌がってはいなかった。大きな黒い瞳が見開かれた後、斜め下の一点を見つめる。
「価値が……ある」
そう言った佐久早に、私は得意げに「ほら」と言ってみせる。今のはただの幸運だ。佐久早は何もしていないのだから。
しかし、佐久早は意味ありげな視線を私に寄越して語り掛けた。
「日頃の努力の賜物だからな」
それを言えば、佐久早が私にキスをさせるために努力していた、つまり佐久早が私を好きだということになってしまうがいいのだろうか。こんな簡単に、佐久早は言質を残すのか。思ったより佐久早の攻略が簡単であるらしいことに私は驚いていた。そう思う時点で、私も佐久早のことを特別に思っている。そうでもなければ、キスなどしないのだ。
二つの感情が明らかになった今、空気は佳境を迎えていた。しかしそれを遮るように、佐久早の部活仲間が呼びに来た。佐久早は名残惜しいような顔をして出て行った。明日、どんな顔をして会おうか。佐久早がいなくなってから、私は急に恥ずかしくなった。
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