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※260話ネタバレ

「愛なんざクソ食らえ。ぬくぬく平和に育ってる奴も全員地獄に落ちればいい。俺だけが苦しむなんて許さない。子供を作って、子供も同じ目に遭わせてやる」

 カイザーはオフィシャルな場に向けて偽りの自分を作っているわけではない。一般市民のミヒャエル・カイザーの人間的評価は低いままだし、彼のチームメイトに聞いても同じことを答えるだろう。それでもみんながカイザーに惚れるのは、圧倒的なサッカーのセンスがあるから。ではサッカーのことなど何もわからない私が何故カイザーと一緒にいるのだろうと思うと、苦々しい気持ちになる。恋愛だろうが親愛だろうが、カイザーにあまり深くは関わりたくないものだ。

「じゃあ何で私を選んだの?」

 私はカイザーの襟足を撫でた。カイザーの生まれや育ちが良くなかったこと、それに対してカイザーが復讐しようと思っていることはどうでもいい。復讐の矛先が私に向いたところで、私はどうでもいいと思っただろう。蔑まれて生きてきた人間が下剋上を成し遂げることは正しいと思うから。けれど、その方法が子供を生むとなれば別だ。子供は愛の末にできるものだ。子供を生む相手に、カイザーは息をするように自然と私を選んだ。私へ復讐するためではなく、世間に復讐するための共犯者として。

「カイザーは愛を知ってるんだよ」

 カイザーが気付いているかはどうでもいい。気付いているから、余計に苦しんでいるのかもしれない。自らの首を絞める姿を見ているとそう思う。けれど、私はカイザーが自分の気持ちに向き合うならば、世界中に嫌われるかもしれない復讐の共犯者になる覚悟だってあるのだ。私はカイザーと関わりたくないと思いながら、カイザーの道連れになる運命を受け入れている。同情なのだろうか。恋だとか、そんな言葉で説明出来たらよかったのだけど、生憎私達はそんな単純な間柄ではなかった。カイザーはまだ苦しそうに眉をしかめていた。