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「俺が寝てたら痛いことしてくれない?」

 唐突にそう話しかけた寝太郎こと凪誠士郎は、私の隣の席の生徒だ。何をしているのか、何を考えているのかも謎なまま、今まで近所付きあいをしてきた。だが、今回の発言はさらに凪誠士郎の謎を深めるに十分だった。

「そういう趣味の人……?」

 困惑している私に気付いたのだろう。凪は、御影くんに授業中寝てはいけないと言われたことを話した。そういえば最近凪は御影くんと一緒にサッカーをしていて、にわかに注目を浴びていたのを思い出す。放課後罰などを言い渡されて部活が潰れたら御影くんとしても困るのだろう。

「俺、普段起きる時サボテンに指刺して眠気覚まししてるんだよね」

 凪は寮の生徒だった。ならば自己管理ができているのではないかと思うが、授業中は別のようだ。とにかく凪は痛みやそういう刺激がないと起きられないらしい。

「じゃあまち針とかで刺せば……」
「苗字さんもそういう趣味の人?」

 凪は呆れたように言った。流石にまち針はやりすぎだということなのだろう。私もソーイングセットを持ち歩いてはいないし、授業中にできることを考えるしかない。

「ちょっと痛いくらいでいいよ」

 そういう凪は、次の授業でも寝る気満々のようだった。

 宣言通り、凪は日本史の授業で寝た。授業中に起こしてもらう方法を考えるより授業中に寝ない方法を考えた方がいいのではないかと思うが、もう寝てしまったものは仕方ない。私は凪の指を見た。

 毎日サボテンに刺しているだけあって、確かに凪の指には小さな傷がある。あれを刺激できたら、ちょうどいい目覚ましになるだろう。まち針も何もないまま、どうやって。

 咄嗟に思いついたのが、指を噛むことだった。この時の私は実家の飼い犬にインスパイアされてばかりで、決していやらしいことを考えていたわけではないのだ。凪の方へ首を伸ばし、ぱくりと咥えこんで甘噛みする。それだけでは起きないから、噛んだり舐めたり刺激を加える。石像のように動かなかった凪の方から声が降ってきた。

「それはさ、女の子がやっちゃダメでしょ」

 凪は目と口だけを動かしていた。気付いたら激しく指を動かされ、私の口内は蹂躙されている。犯されている、と言った方が正しいかもしれない。教師が呑気に授業をしている声が聞こえてくる。ここで声を上げようものなら、私と凪は揃って罰を受ける。

 涙目になりながら耐えていれば、凪はわざとらしく糸を引いて指を引っ込めた。

「目、覚めた」

 口の形だけで伝える。次凪が寝たら、私は一体どうすればいいのだろう。何故か凪より私の方が困っている。御影くんに助けを求めたいくらいだ。