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※侑にモブ彼女あり
「俺の彼女めっちゃ内気やねん。俺と付き合ってること知られたないんやって」
私を空き教室に呼び出した侑は、肘を机にかけ、いかにも尊大な態度で私と向き合った。
「それで?」
「俺がフリーやと思われて狙われたら彼女が気にするやろ」
そもそも本当に彼女想いの男ならば空き教室で他の女と二人になったりしない。侑がこの状況を選んだのは、そういう気遣いに欠けているからか、「私だから」という甘えがあるからか。上から目線の態度を崩さないまま、侑は言い放った。
「お前となら付き合ってるって思われてもええわ」
私は思わずため息をつきたくなった。侑の彼女のため(になるのかわからないが)、私は侑と付き合っているふりをするのだ。そんなことをしても私には一寸の得もないどころか、下手をしたら彼女から恨まれることもある。
「嘘の噂を流すってこと?」
「その方が彼女が傷付かんからな」
どんな女だ。心の中で突っ込みを入れながら、きっと顔やスタイルだけで付き合ったのだろうと思った。侑が独り身だと思われたくないがために私を人柱にする。もし私が侑を本当に好きだったらどうするつもりなのだろう。こんなことを頼める時点で、相当仲がいいのだから。
侑も侑なら彼女も彼女だ。現在彼氏がおらず、噂もどうでもいい私はその話を了承した。噂はあっという間に広まり、ひとまず目的である侑が彼女持ちだと思われることには成功した。侑は時折私を彼女らしく特別扱いし、そのことが私の癪に障った。彼女が見ていたらどうするつもりだ、と。
だが所詮彼女は侑が適当に付き合った彼女だったのだ。私のことが影響してかはたまたよくあるすれ違いか、侑は彼女と別れた。もう噂を流す必要はないのに、私と侑が付き合っているという空虚な噂だけが独り歩きしている。私は侑と作戦会議をしようと話しかけた。ひとまず、別れたという噂を流すのはどうだろう。そう言おうとした時、侑はいかにも面倒だという顔をして片手間に答えた。
「本当になってもええんちゃう? お前やし」
本当になる、とはつまりこの発言は告白であるはずだ。それをこれほどぞんざいな言葉で示すとは、私に対する扱いの雑さがよくわかる。そもそも、私をカムフラージュの相手に選ぶ時点で雑に扱っているのだ。それが侑なりの照れ隠しと言えばそうなのかもしれないけれど、上から見下ろしているような雰囲気は否めない。
「侑が前の彼女と付き合っとる時から浮気してたって噂流しとくわー」
私が適当に言うと、侑は漸く動揺したような姿を見せた。先に噂を利用したのはそちらなのだから、噂を流されても文句はないはずだ。私は足取り荒く立ち去ったが、本当にそれを実行する度胸はなかった。日常会話のように進行していく恋愛のやりとりに、少しついていけないだけだった。
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