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 始まりは小さな嘘だった。私は神々廻さんと寝るために、南雲さんと寝ていると言った。案の定、神々廻さんは初めて私を正面から見た。

「自分、そうなん」

 神々廻さんは私自身の価値を買ったのではなく、南雲さんが選んだという点において南雲さんの判断を尊重したのだと思う。南雲さんがセフレに選ぶくらいならば、きっと優れた女なのだろうと。

 そこから神々廻さんと関係を持つまでは早かった。南雲さんのことだから、きっと正当な恋人関係など築いていない。宙ぶらりんのセフレだと信頼していたのだろう。私は改めて南雲さんに感謝した。神々廻さんを刺激できて、さらにはセフレになれるまでの影響を与えられるのは南雲さんしかいない。

 神々廻さんに抱かれながら、私は幸せに包まれていた。好きな人に抱かれる。神々廻さんは私の心までもが神々廻さんのものだとは気付いていないけれど、それでいい。

 私は自分のことばかり考えて、南雲さんのことをすっかり忘れていた。南雲さんは黙って利用されているような人間ではなかったのだ。どうしてそのことに、気付かなかったのだろう。

 神々廻さんと殺連で待機している時、唐突に部屋の扉が開いた。南雲さんだった。私はその時点で悪い予感がしていた。南雲さんが私の嘘を知ったのではないかと。考えてみれば、私ごときの嘘を南雲さんが知らないはずないのだ。

「僕達セフレなんだよね。だからしてもいいよね?」

 神々廻さんは元からそのことを知っているから、驚かなかった。肝を冷やしたのは私の方だった。

「勝手にせえ」

 つまらなさそうに爪をいじりながら言う神々廻さんに対し、南雲さんは「ありがと〜」と言って私を引っ張っていった。私の嘘に気付き、私の嘘を利用されたのだ。私は神々廻さんを好きなのに、これから南雲さんとセフレのようなことをしなければならないことに戦慄していた。

「僕のこと使って神々廻に近付いたみたいだね。でもね」

 神々廻もあんな嘘、とっくに気付いてると思うよ。

 そう聞いた瞬間、私は今すぐ引き返して神々廻さんの名前を呼びたくてたまらなくなった。けれど南雲さんがそれをさせなかった。ただ足早に歩いていく。その足はきっとホテルに向かっている。私は自分の恋心が叶ったことを知った瞬間に、南雲さんに抱かれるのだ。遊びのような感情で。これも嘘に南雲さんを利用した代償だと思えば、きっと安いものなのかもしれない。