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 苗字が登校するなり俺にレシートを突きつけてきたのは、体育祭も終えた五月下旬のことだった。

「朝コンビニでお菓子買ったらついてきたの。あげる」

 ついてきたと言っても所詮それはレシートだ。俺はレジ横のごみ箱か何かだと思われているのだろうか、と思いながらよく見れば、そこには新商品のおまけがついていた。どうやらこのレシートを見せれば、無料で新商品を貰えるらしい。

「ありがとう」

 俺は素直に礼を言った。彼女の前でお菓子を見せつけるように食べたことはない。俺イコールお菓子というイメージでもないだろうに、レシートを渡す相手として考えてくれたのが嬉しかった。

 何気なく俺はレシートを裏返し、仰天する。そこには個人の電話番号としか思えない番号が手書きで書かれていたのだ。これは明らかに、彼女へ向けられたものである。彼女は気付いていないのか。知っていて、俺にそのことを見せているのか。俺の危機感を煽るために。

 後者だとしたら彼女は策士だ。狙い通り、俺は猛烈な焦りに襲われていた。コンビニに入っただけでナンパされるなんて。そんな人を好きでいて俺の前途は多難ではないだろうか。もう彼女を好きだということは認めてしまうことにする。だって、あげるものに電話番号を書くなんてよくあるナンパの手段ではないか――。

 そこまで考えて、待てよと思い直す。逆に、この電話番号が彼女のものだという可能性はないだろうか。つまりナンパをしているのは店員ではなく彼女であると。ナンパされているのは俺であると。

 俺は落ち着かない気持ちでそっと彼女の背中を叩いた。

「なあ、お前の電話番号って何だっけ」

 メッセージアプリやメールで繋がる時代だ。電話番号を知ることはそうそうない。

 俺の期待するような表情から何かを感じ取ったのか、彼女は呆れ顔を浮かべた。

「何それ、ナンパみたい」

 だから、ナンパされているのはお前なんだよ。彼女が俺に電話番号を渡したという線は薄くなり、この電話番号は店員のものであることでほぼ確定した。俺の下心に気付くくらいなら、店員のそれにも気付いたっていいのではないか。俺が妙に口ごもりながらぼそぼそと言い訳を述べていると、彼女が携帯を取り出した。

「交換する?」

 とりあえず、結果オーライだ。