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今日は暗殺の任務が入っているわけではない。けれど、一応それなりに腕の立つ殺し屋の私の居場所を彼は何事もないように特定してくる。やはり、元から関わってはいけない人間だったのだ。苦虫を噛み潰すような表情をしながら、私は彼の方を振り返る。
「何でついてくるの?」
「やだなぁ、僕達付き合ってるでしょ?」
彼――南雲は、愛想のいい笑みを浮かべた。その笑顔が作られたものなのか、はたまた本気でこれをデートだと思っているのかわからない。
私達は、数日前に一度寝た仲だった。愛があったわけでも、夜の場で意気投合したわけでもない。殺し屋として、南雲が私を利用しただけなのだ。
「私から情報を抜くために寝ただけでしょ」
私が言うと、南雲は呑気な声で煽るようなことを言うものだからさらに腹が立った。
「ああ、あの情報全然役に立たなかったなぁ」
「もうハニートラップは終わったんだからどっか行って!」
南雲は私から情報を抜いた。私はまんまと騙された。既に目的は達成したはずなのだ。なのに何故ハニートラップの相手につきまとうのだろう。ハニートラップなんて一晩寝たら終わりのはずだ。あの夜が仕事のためであったこともネタが割れている。早くどこかに行けとばかりに睨むと、南雲が小首をかしげた。
「僕が離れたら君の上司が君を始末しに来ると思うけど、いいの?」
そこで初めて、南雲は私のことを守っているのではないか、という思いに駆られた。だとしてもときめきなどないし、上司に殺される元凶を作ったのは南雲なのだから感謝すらないが、その笑みの裏に策略があるような気がしてならない。
「もしかして自分の所に入れって言ってる?」
ORDERに入れとはいかなくても、南雲の部下のようにこれから利用されるのかもしれない。一見は普通の殺し屋として。実は南雲のスパイとして。
私としては神経を使った探り合いをしていたのだが、相変わらず南雲は呑気な笑みを浮かべるのみだった。
「プライベートな意味なら、僕の隣に収まってほしいかな〜」
今、そういう話をしているのではない。私は早足で歩いた。尾行を撒くための手段は一通り身に着けているが、どれも南雲には通用しないだろう。もう、どうにでもなれだ。二人分の足音が街路に響く。
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