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 冴くんは帰国して連絡をとると、私の部屋にやってきた。仮にも異性の部屋に堂々と入るのは、冴くんが私の幼馴染だからなのか欧米に染まってしまったからなのかわからない。

 冴くんは棚にある漫画を見つめ、目を細めた。

「お前のせいでスペインで恥かいた」

 私は小さい頃私の部屋に入り浸っていた冴くんを思い出した。凛くんは外でサッカーがしたくてたまらないようだったけど、冴くんは私と室内で遊ぶのも好きだった。冴くんはいつも、私の少女漫画を読んでいた。冴くんの恋愛知識はいつからか、私が所有している少女漫画が出典になっていたのだろう。

 私はすぐに冴くんが言いたいことを理解した。あれほど真剣に読んでいた少女漫画を見て、今は苦い顔をしている。所詮日本の女の子向けの漫画なんて、ラテン女性には通じなかったのだろう。

「じゃあ日本人と付き合えばよかったじゃん!」

 少女漫画の知識が通用するような。その意味を込めて私が言うと、冴くんが感情を消した表情で私を見た。

「お前がそれを言うか?」

 渡西する前、告白をしてくれた冴くんに遠距離恋愛はできないと言ったのは私だった。だからと言って、日本人すべてを諦めることなどないだろう。

 私の考えていることなど見透かしたかのように、冴くんは斜め下を向いた。

「日本で付き合いたいのなんてお前だけなんだよ」

 スペインで付き合ったのもすぐ別れた。ていうかあれは付き合ってなかった。

 冴くんはそう続けた。サッカーもそれ以外の部分も世界に染まってしまった冴くんが私のことをまだ特別視しているなど思いもしなかった。昔好きだった人としてなのかもしれないけれど、私を動揺させるには十分だった。ただの幼馴染を家に招いただけのはずなのに、今の状況が急にシリアスに思えてくる。冴くんと目が合うのが怖い。けれど冴くんのことを見ていたい。微妙な気持ちの中、私の想いは揺れている。