▼ ▲ ▼

 試合を終えて、ホールにて帰りのバスを待つ。小さな地区大会だからか、負けて本気で泣いているような選手が散見されないことが俺にとっては少し楽だった。今日の試合会場は、なんとなく和やかだ。

 落ち着いた気持ちでホールを見回していると、クラスメイトの苗字を見つけた。もう帰ろうとしているところを見るに、お目当ては俺の試合だったのだろう。チームメイトに一言断ってから、俺は苗字の方へ近付く。

「観に来てくれたのか、試合」

 彼女は俺に気付くと、にっと悪戯な笑みを浮かべた。

「佐久早のマスクなしの顔を見に来た」

 そういえば、教室で俺のマスクなしの顔を見たいと言われた時に、試合ならしていないから見に来ればと言ったのだった。まさか本当に見に来るとは思わなかった。その言葉に、少しの下心があったことは認める。

「佐久早ってイケメンだね!」

 だから、そう言われて嬉しいはずなのに、俺は少しむくれていた。

「俺は全国優勝チームのエースなんだが」

 自慢しているみたいになっているが、そういうことではない。俺が言いたいのは、試合で俺の顔を見ていたのではなく、俺の活躍を見ていたのではないかということだ。

「試合で俺を見直したとかはないわけ?」

 お局のような言い方になってしまった。苗字は俺の嫌味にも屈せず、明るい笑顔を見せた。

「それも含めてかっこよかったよ!」

 俺はこんな言い方しかできないのに、苗字の素直さにあてられて自分の卑屈さが浮彫になったようだ。だから苗字のことは少し苦手で好きなのだ。太陽は俺にとっては眩しすぎる。だけど、手を伸ばしたくなるのが人間だろう。

「ありがとな」

 俺は苗字の頭をぽんと叩いた。後でチームメイトからからかわれそうだが、ちょうどいい場所にあった苗字の頭が悪いのだ。そういうことにする。