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「好きなんだけど……」

 と語る研磨はまるで放課後ゲームに誘うかのような語り口で、彼が恋愛に慣れていないことがわかった。その視線は落ち着きなく泳いでいて、緊張していることもまた見て取れる。多分、研磨から告白するのは私が初めてだ。研磨が女の子から告白されたことがあるのかどうかは、わからないけれど。

「研磨に恋愛感情とかあるんだ」

 私が言うと、研磨は心外だとでも言うように眉をしかめた。

「人が告白してるのに失礼だよ」

 遠くで運動部の掛け声が聞こえる。教室とはいえ、私達は二人きりなのだと今更ながらに実感する。私も研磨も幼馴染としての時間が長すぎたせいか、あまりそういう雰囲気にはならない。

「だって研磨って親愛と恋愛の区別つかなさそうじゃん。私が唯一女子で喋れるから好きと勘違いしたんじゃなくて?」

 研磨はおもちゃを没収された猫のような顔をした。口をやや尖らせて、飼い主に反抗するような表情だ。私達は飼い主と猫ではなく、対等な関係であるはずだった。しかし思春期の男女ともなれば、力で対等になれるはずもなかった。

「違う。おれはこういうこともできる」

 研磨は私を壁に追いつめた。壁に手をついて、私は研磨と壁に挟まれる。研磨との距離が近付いて研磨以外は見えなくなる。

 ここから無理に何かをすることもできただろうに、研磨はそれをしなかった。研磨の目的は私に無理やりキスやセックスをすることではなく、脅しをかけることだったのだ。自分はこれまでに本気だぞと。

 強引なくせにどこか中途半端な研磨がじれったくなって、私は研磨の方へ顔を突き出した。

「私はこういうこともできる」

 唇が離れてから喋る。

「……は?」

 壁ドンをしたくせに、研磨はわけがわからないという顔で立ち尽くしていた。研磨はやはり壁に追いつめる以上のことをする度胸などなかったのだ。その未熟な少年らしさが可愛らしくて、私は笑みを浮かべる。

「告白オーケーってことだよ」

 とりあえず結論を言うと、研磨は体を離して小さく独り言ちた。

「意味わかんない、さっきまでのやりとり何なの」

 文句を言いつつも、その表情には喜びが見て取れる。私が研磨を翻弄できるのも今のうちで、すぐに研磨に形勢逆転されてしまうのだろうなと思ったら少し寂しくなった。