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授業中に甘い苺の香りが漂ってきたのは、チャイムが鳴って五分経つかという頃だった。その香りはどう考えても香水のような洗練されたものではなく、むしろ子供用のお菓子についているような甘ったるいものなのだった。一体、誰が。俺は近くを見回して、隣の席の苗字が何やら口に入れているらしいのを見た。口の動きから察するに、飴でも舐めているのだろう。これがクラスメイトのどうでもいい奴だったら何も言わず放置するところだが、苗字が見つかって放課後呼び出しなど食らったら可哀想だ。と思うくらいには、俺と苗字は親しい友達であった。
「おい、真面目に授業受けろ。その飴口から出せ」
俺は小声で言う。苗字は飴を舐めていることがバレたことに驚いているようだった。どうしてバレないと思っていたのだろう。とりあえず、苗字は飴を口から出して手に載せる。苗字の手に乗った飴は唾液が乗っててらてらと輝いていた。唾液なんて汚いと思うはずなのに、俺は何故かそれがとても美味しそうに見えた。
ティッシュでも貸してやるか、と思った時、それまで教壇に乗って授業をしていた教師が教室内を歩き始めた。このままでは俺達の方に来てしまう。飴をゴミ箱へ捨てに行けば何をしているのだと言われてしまうだろう。ティッシュを出して包み込むことが間に合うかもわかない。教師はあまり厳しい方ではないが、流石に授業中に飴を舐めていたとなれば怒るだろう。どうする。
教師が俺達の方へ近付いた瞬間、俺は咄嗟に飴をとって自分の口に放り込んでいた。苗字が舐めていたものだとか、そういうことはどうでもいい。苗字が怒られないために。
教師は匂いに気付かなかったのか、何事もなく俺達の横を通り過ぎた。口から出すこともできない俺は、飴を口内で舐め続ける。教師が教壇に戻った後、苗字がにっと笑って囁いた。
「共犯だね」
うるさい、お前のせいだと言いたかったけれど、飴を舐めているせいで言えなかった。久しぶりに舐めるイチゴ味の飴は、酷く甘ったるい味がした。
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