▼ ▲ ▼

 帰宅時間帯は想定外の雨だった。もう梅雨に入っているのか、その雨脚は生易しいものではない。傘もなしに外に出ればたちまちびしょ濡れになってしまうだろう。

 傘を忘れ、置き傘もない私は昇降口に立ち尽くした。帰りが遅れることはいい。けれど、濡れることだけはどうにか避けたい。

 途方に暮れている私の横を侑が通り過ぎた。「ほな」と言いながら使い捨てらしいビニールの傘を開く。そのまま去って行こうとする後ろ姿に、私は思わず叫ぶ。

「普通傘貸してくれる流れじゃないの!?」

 帰り際に挨拶をするくらい、私と侑は仲が良い。私が傘を忘れていることくらい、この状況を見ればわかるはずだ。侑はゆっくりと振り向き、鬱陶しそうな顔をビニール越しに見せた。

「あんな、傘貸すのはブラ見せてくれたお礼やねん。透けブラは男のロマンや。ブラも透かさん奴に貸す傘はない」

 そういえば私は、今日ベストを着用している。だから何だと言うのだろう。ブラが透けている女の子だって、決してわざとやっているわけではないだろうと思うけれど。

 私は空を見上げ、小さく呟いた。

「来週の大会大丈夫かな……」

 侑にはもう期待していない。ただ、折角とったスタメンのポジションを自分でふいにするのが嫌だった。その呟きは侑に届いていたのか、侑がこちらに寄って傘を傾ける。

「これはお前のためやなくて大会のためやから」

 そうやって言い訳をするところがまた侑らしい。私は有難く侑の傘に入れてもらうことにし、上機嫌で侑を見上げた。

「お礼に試合でブラチラ見せするわ!」
「大勢の前で透かしてどうする! 俺の前で透かせ!」

 それが嫉妬なのかただの性欲なのかはわからないけれど、侑は私の大会のためなら傘に入れてくれるくらい私をよく思っているのだ。恋愛ではなく友愛だったとしても、居心地のいいものだった。今はこの感情に名前を求めないことにして、侑の隣を歩く。不思議とそこは居心地がよかった。