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※凛にモブ彼女あり

 物心ついた時から、凛の部屋が私の第二の部屋のようなものだった。私用のクッションが置いてあって、私が糸師家に入っても誰も不審に思う人はいない。けれど、何年ぶりにと言うべきか、私は凛の部屋へ行かなくなった。自室で漫画を読んでいると、不服そうな顔をした凛が扉を開けた。

「何で来ないんだよ」

 私が折角行くのをやめても、こうして凛に来られてしまっては意味がない。私は漫画を閉じ、凛の方へ顔を向けた。

「そりゃあ離れるよ。彼女に悪いもん」
「お前まで俺を置いて行くのか」

 私がしているのは恋愛の話で、私が凛を見限ったとか、冴のように置いていくとかそういうことを言っているのではない。でも凛にとって冴に置いて行かれたことのトラウマは大きく、冴と同じくらい長い間を一緒に過ごした私に離れられることは我慢ならないようだった。折角できた彼女に配慮をしているのに、凛の方は彼女などどうでもいいようだ。この分では、告白されて適当に付き合ったのだろう。恋愛に無頓着な凛のやりそうなことだ。

「そうしたら私としか付き合えなくなっちゃうよ?」

 私が言うと、凛は小さく鼻を鳴らした。

「置いて行かれるよりいい」

 そう言う凛は母親に置いて行かれることを怖がる小さな子供のようで、なんだかとても可愛く思えてしまったのだった。

「ていうわけで、私達が付き合ったのはほぼ冴のせいなんだよね」

 月日は流れ、数年後。冴と凛が和解し、三人が日本にいる今、私達は昔のように揃って会話していた。あれから凛はすぐに彼女と別れ(交際して二日目だったらしい)私と付き合った。私との付き合いはどうしてか何年も続いている。冴は目を細め、じとりとした視線を凛に向けた。

「何俺のせいにしてんだよ」

 冴がどうして凛を責めるのだろう。凛の顔を見られないまま冴の動向を見守っていると、冴は告げ口するような口調で言った。

「コイツ昔から名前のこと好きだったんだろうが。その女だって名前に振り向いてもらえないから適当に付き合ったんだろ」
「兄貴……!」

 どうやら、凛は昔から私のことを好きだったようだ。きっかけとなった出来事がなくても、私達はいずれ付き合っていたと言いたいのだろう。慌てる凛をよそに、私は頬杖をつく。

「どっちにしろ付き合ってたっていうのはどうかな」

 私が言うと、凛の不安そうな視線が飛んでくる。付き合う時向けていたような、捨てられるのを恐れる視線。まだそんな顔ができたのだ、と思う。

「凛はヘタレだからいつまで経っても告白なんてできないかも」

 冴が小さく吹き出し、凛は怒るやら焦るやらで忙しそうだった。まあいいではないか、と思う。今付き合えているのだから、それに勝るものはない。あの時駆け引きを仕掛けた私の勝ちなのだ。