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 佐久早と飲み屋に行った。二人飲みではなかったけれど、佐久早にしては珍しく「酔った」と言い、同じく酔っている私を連れて佐久早の家に向かった。佐久早とは大学に入った時からの仲だが、私を異性のように扱うのは初めてだった。呆気に取られている内に、私は佐久早の家のベッドに押し倒されていた。

「……抵抗しねぇのかよ」

 そう言う佐久早の顔はほんのりと紅い。自我をなくすほど酔ったところなど見たことがないのだ。今日も家に帰らなければならないほど酔ったなど嘘なのだろう。私は現状についていけないまま、私の上に馬乗りになる佐久早を見上げた。

「解釈違い」
「は?」
「佐久早が飲みから女持ち帰ってそのまま抱くとか解釈違い! 佐久早は付き合って相当経たないとセックスとかできないタイプだから! それに外から帰ってそのままの格好でベッドに上がるのも絶対嫌がる」

 佐久早は嫌そうな顔でため息をついた後、「シーツについてはお前とヤった後すぐ洗濯する」と言った。すっかり佐久早の予定には私とセックスすることが組み込まれているようだが、行為後すぐに洗濯するというのは情緒がないのではないだろうか。

「他のことは? 佐久早は潔癖なんだから極限られた相手としかセックスできないでしょ。長年付き合った彼女ならともかく、飲みの後連れ帰った女とするとか佐久早じゃない」

 私は余程佐久早についての解釈を拗らせていたらしい。大学で出会って早三年、佐久早聖臣という人物は私の人生の中でも珍しいくらい濃い人間だった。だからその佐久早が、世間一般の大学生のようなことをしているのに猛烈な違和感があるのである。

 佐久早は答えたくないと言うように黙って眉を寄せた。だが答えなければ先に進めないと感じ取ったのだろう。不本意であるという様子を隠しもせず、私ではないどこか別の方を見ながら言う。

「お前だからだろうが」
「どういう意味?」

 私は佐久早の彼女ではないし、佐久早の潔癖が無効になる相手でもない。つい先程も回し飲みを拒否されたばかりだ。

「だから、お前ならお前が言うみたいに長い間付き合ったりしなくてもセックスできる」

 佐久早にとって私は例外的存在であるらしい。目を丸くして「どういうこと?」と尋ねると、佐久早が嫌そうな顔をしてこちらを睨んだ。

「言わせようとしてやってんだろ」
「え? 何を?」
「あ〜っ……ここで言ったらヤるために必死な男みたいになんだろ」

 佐久早は葛藤するように頭を掻いた。みたいも何も、佐久早は今セックスをするために必死になっている男ではないのだろうか。私が何も言わずに見守っていると、とうとう覚悟を決めたのか佐久早が「好き」と言った。信じられないような気持ちになりながらも、佐久早の今までの言動に合点がいった。

「それなら初めからそう言ってくれればいいのに」
「一発ヤって雰囲気で付き合うようにするつもりだったんだよ……計画台無しだ」

 舌打ちをする佐久早からは先程まで出ていたような妖しい雰囲気がなくなっている。すっかりその気ではなくなったのだろう。私は佐久早の腕の中から抜け出すと、ベッドに腰掛けた。

「折角だからまずはお話でもしよう。セックスはその後」
「その前にまずはシーツの洗濯だ」

 私は強制的にベッドから退かされ、佐久早の背を追って脱衣所へ向かう。私が付き合って最初にすることは、まず洗濯のようだった。