▼ ▲ ▼

 オリンピックで日本がメダルを獲得した。その瞬間にこそ立ち会えなかったが、テレビでは連日のように報道されていた。選手は勿論、選手が奥さんにメダルをかけてあげるシーンも映っている。その姿に、私は憧れを抱いた。

「私もつけてみたいなぁ」

 まだ妻ではなく恋人だから、公の場に出ることはできない。でも、影山君がとったメダルを私にかけてくれたら、どんなに嬉しいだろう。

 テレビの前で呟く私を、影山君がじっと見ていた。

「この間言ってたから、買ってきました」

 行動が早いのが影山君の長所の一つだ。数日後、影山君は小箱を用意した。どう考えても、メダルが入るとは思えない大きさの箱。むしろ、小さなアクセサリーが入っているような。

「え?」

 ある予感が私に訪れる。影山君は今からプロポーズをするのではないかと。

「俺としてはいつ結婚してもいいつもりだったんで。プロポーズの言葉とか思いつかないですけど、とりあえず婚約指輪ってことで」

 影山君は少し照れくさそうにしながらも小箱を開けた。中には、シルバーの指輪が佇んでいる。間違いなくこれはプロポーズだ。

「ありがとう、凄く嬉しい……んだけど」

 言葉を切った私を、影山君が不安そうな目で見る。

「私がつけてみたいって言ったのは、メダルのことなんだよね」

 あの選手の妻は、メダルのほかに指輪もつけていた。だから影山君は私の発言を指輪のことだと勘違いしたのだろう。そのせいでプロポーズさせてしまって、申し訳ないと思っている。それが表情に出ていたのか、影山君は焦ったように前のめりになった。

「メダル! メダル貸しますから結婚してください!」
「メダルかけさせてくれなかったら断るとかじゃないよ!」

 私は語気を強める。指輪を望んだわけではないと誤解を解きたいのであって、結婚を断りたいわけではない。

「私も影山君と結婚したいし!」

 私が言うと、部屋がしんと静かになった。さっきまで勢いのよかった影山君が大人しくなっている。顔を見上げれば、憑き物が落ちたような表情の影山君の顔がある。

「はい」

 これは、返事だ。もしかして私からプロポーズしたことになっているのではないかと思いつつも、まあいいかと納得した。これから指輪をつける機会も、メダルをかける機会もいくらでもあるのだから。横に下げていた私の手を、影山君がとった。