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東京に出て、同じく上京組である影山君と出会ったのは偶然のことだった。影山君は私を見て驚いた顔をした後、「どうも」と挨拶をした。そこからお茶でも、という流れになったのは、宮城にいた頃少なからず私達が親しい距離感にいたからだろう。私達は何かの間違いがあれば一緒に東京に来ていたのかもしれない。今東京で二人でいる時点で、その「何か」は起こっているのかもしれないが。
「東京はどう?」
入った喫茶店にてコーヒーを一口飲んで私が聞く。影山君は不動のまま座っていて、運ばれてきたコーヒーに口をつけようともしなかった。
「朝いつも満員電車で、くっついて乗ってるカップルとかいて」
影山君は下に目線をそらす。宮城では滅多になかった満員電車。影山君は上京して苦しい思いをしていたのだろう。
決心したように、影山君の顔が上がる。
「俺もそういうの苗字さんとしたかったです」
「乗ろう! 満員電車!」
気付けば影山君にあてられて、私もそう口走っていた。私達はやはり、付き合うまであと少しのところにいたのだ。影山君がこの積極さを学生事態に持っていたら。卒業して離れたからこそ積極的になれるのかもしれないが、私はたらればを考えずにはいられなかった。
影山君と電車の中で抱き合うなど、考えただけで顔が緩みそうだ。まだ電車が混む時間ではないので、夜まで待つか混んでいる場所を探すことになる。それにしても、私達は満員電車に乗ってどこへ行くのだろう。
「もしかして、満員電車乗るより普通に抱き合った方が早い?」
ただ抱き合いたいだけなら、別に電車に乗る必要はないのではないか。そう思って発言した私もまた、高校時代にはなかった積極性を身に着けていた。
「その辺でするのもあれなんで、俺ん家来ます?」
その場の空気が、ぐっと引き締まった気がした。もう付き合う付き合わないの駆け引きを楽しんでいた高校時代ではない。私達は大人になってしまったのだ。そう実感せざるをえない一言だった。
私は緊張しながら小さく頷いた。高校時代叶わなかった思いは、時を重ねて成就しそうだ。
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