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「ねえ、研磨代わりに引いてくれない?」

 そう言う名前の手にはスマートフォンが光っている。画面に表示されているのは、最近流行りのソシャゲのガチャ画面だ。なんとなく嫌な予感がしつつも、名前の頼みを断れないおれは「いいよ」と十連ボタンに指を置いた。

「研磨ってゲームは上手いけど運はあんまりだよね」

 結果は、R、R、R。申し訳程度にSRを一枚引いたが、それはもう持っているものだった。名前はSSRを期待しておれに引かせたのだろうけれど、残念ながらその試みは打ち砕かれた。不満そうな顔をしている名前に対し、おれは言い訳のように口走る。

「おれだって運良いし。そうじゃなかったら名前と二回連続近い席になんてならないし」

 名前に好意を抱いていることがバレてしまうが今更だ。そもそも、名前だっておれの好意を知っているからガチャでおれに頼ってきたのだろう。結果は悲惨だったが。

 名前はソシャゲ画面を閉じ、スマホをポケットにしまった。

「今の席、目が悪い子が前の席にしたいって言ったから私が交換してあげたんだよね」

 それは知らなかった。確かにおれと名前の席は一番後ろなので、目が悪い人は困るだろう。自分の実力のように言ってしまった手前、恥ずかしい。

「だから、運じゃなくて私の努力だよね」

 そう言って名前がはにかんだ瞬間、おれの心がほころんだ。名前だって、おれのことを好きなのではないか。そう思ったけれど、確かめる度胸はない。今おれは挙動不審になっているのだろうな、と思いながら落ち着かず手をいじる。SSRを引いた時よりもっといい幸運を、名前はおれにくれたみたいだ。