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「警察庁警備企画課って書くやつやろうかな」

 そう言う苗字の手には、真新しい置き傘が一つ。この時期には欠かせないものだ。

 苗字は、傘を盗まれたらしい。いくら井闥山学院の偏差値が高かろうと、集団が大きくなればそういうリスクは存在する。苗字は前の傘をえらく気に入っていたようだから、余程ショックなのだろう。確かに、傘を盗まれないように警察庁のシールを貼っておくやり方はネットで見たことがある。

「何で高校生にそんな奴がいるんだよ」
「じゃあこうだ!」

 俺が呆れてため息をつくと、苗字は傘の柄に「佐久早聖臣」と書いた。何で俺のフルネームなんだ。俺だって、高校生になって傘にまで名前を書いたりしない。

「佐久早の傘なんてみんなパクリづらいでしょ」
「俺が嫌われてるみたいなのやめろ」

 と言いつつも、俺の皮を被る狐のようになっている苗字を見るのは正直気持ちがいい。まるで俺が頼られているみたいで。

「佐久早のものみたいになっちゃったね」

 悪戯に笑う苗字を見て、俺の胸は確実にときめいた。


「シールも貼っちゃった」
「それはやめろ」

 後日苗字が見せた傘の柄には女児よろしくシールが貼られていた。俺が女児シールを貼ると思われるのは断固拒否だが、俺が苗字に名前を貸していると思われるのはまあ、悪くない。