▼ ▲ ▼

※マイナス

「ごめん、今はバレーに集中したい」

 好きだ、と言った時、古森は視線をそらして答えた。まるで用意していた答えを暗唱するように、慣れた声色だった。そのまま告白が終わるのかと思いきや、古森は諦めたように頭を掻いた。

「っていうのは建前で、俺本当は付き合ってる子がいるんだよね」

 多分、これは隠していることなのだろう。私は今まで古森に彼女がいるなど聞いたことがなかった。友達として、古森と親しい位置にいる自負があった。今の古森は、殻を一つ破ったような新鮮さがあった。

「それ私に言ったらダメなんじゃないの?」

「建前」と言うくらいなのだから、普段はバレーを理由に断っているのだろう。彼女がいることも隠しているのだろう。恐らくは、彼女の希望で。古森は彼女ができたら彼女を大事にするタイプだと思えた。今まで彼女がいることを理由にしなかったのも彼女への気遣いだろう。

「苗字にならいいかなって」

 古森はそう言って軽薄な笑みを浮かべた。本当に何も考えていないようでいて、脅迫のような信頼を出した笑みだった。

「苗字が告白してくれたなら、俺も本気で返したかったんだ」

 私はそれだけ古森にとって特別なのだろう。特別なのに、恋愛対象ではない。私はその矛盾を、これから何度も噛み締めることになる。

「ありがとな」

 その言葉で古森は告白を終わらせた。「ごめん」ではないのが彼らしかった。私は一つ息を吐いて、これからも友達として接してくるだろう古森と話す方法を模索した。