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※原作通り死ネタ

「付き合ってほしいんだ」

 晩夏の太陽を背にした夏油の表情は真剣で、それでいて曇っていた。私はそれを逆光だからだろうと思った。付き合ってほしいと言われて何に? と返すほど鈍感ではない。夏油に少なからず惹かれていた私は、その誘いに頷いた。

 それから夏油が向かった場所は、クレープ屋でも、ましてや夏油の部屋でもなかった。まず夏油は両親を殺し、高専の制服を脱ぎ、袈裟を着た。これから非術師を皆殺しにするのだと言っていた。私はその時になってようやく自分の勘違いに気付いた。夏油は異性として付き合ってほしいと言ったのではなく、非術師を皆殺しにする理想に付き合ってほしいと言ったのだ。

 そんな大層な理想に、何故私が選ばれたのかわからない。私は勘違いに気付いていたけれど、夏油の元を離れなかった。夏油も私と認識の齟齬があることに気付いていたと思うけれど、何も言わなかった。私が非術師に手をかけないことに対しても、目を瞑っているようだった。それでは何のために一緒にいるかわからない。私達は自分達のすれ違いを口にしないまま、十年の時を過ごした。

「最初に君を誘った時、君は勘違いしていたよね」

 夏油の声は細い。もう片腕はなく、顔色もどこか青ざめている。これから私にできることはないのだろう。つくづく私を何故スカウトしたのかわからなくなる。私がいても、何の役にも立たないだろうに。

 夏油は人のいない路地裏で笑った。

「でも勘違いしたままでいいと思っていたんだ。何故なら私は君を好きだから」
「今言っても意味ないよ、それ」

 私は思わず眉を下げた。夏油が私を非術師殺しに巻き込んだ理由が、個人的感情だなんて知らなかった。だから役立たずでも置いていたのか、と思うと同時に、勘違いされていたままでも放置していた理由にも納得する。もう少し早く言ってくれれば恋人らしいこともできただろうに、夏油はそれをしなかった。夏油には大義があったから。
 遠くから足音が聞こえる。この音はきっと、五条だ。

 私は最期に夏油の頬を撫でて、小さく微笑んだ。

「バイバイ」

 夏油の目が、柔らかく細められた。