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 全国優勝してからというものの、ミーハーな女が増えた。俺はエースというだけで芸能人でも何でもないのに、写真を撮ろうと言ってくる女がいる。その写真がどこにアップされるかもわからないことを考えるとため息をつきたくなる。けれど、断ったらもっと面倒なことになりそうだ。

 俺が諦めて画角に入ろうとした時、相手を刺激しない程度の声量で断る声がした。

「佐久早くんは写真とか嫌いだと思うから」

 同じクラスの苗字だ。彼女は写真を撮ろうとした女子と交流があるようで、それなら仕方ないね、と女子も去っていく。再び訪れた平和を前にして、俺は苗字の認識を新たにする。

「……ありがと」

 親切な人。それが俺の今の苗字に対する印象だ。苗字は「全然」と頭を振った。

「そのためにマスクつけてるんでしょ?」
「は?」
「私も顔面コンプなんだよねぇ〜」

 そう言う苗字は、確かにいつもマスクをしていた。花粉症か、喉が弱いか、俺と同じように潔癖であると思っていた。苗字が何の理由で常にマスクをしていようがどうでもいいのだが、俺も同じ理由だと断定されるのは困る。

「俺は自分の顔面にコンプレックスなんかない」

 言った後で、ナルシストみたいで恥ずかしくなった。自分の顔を気に入っているわけではない。でも、顔を隠したくてマスクをしているわけではない。

「そもそもお前だって可愛いだろ」

 誤魔化すために俺が言うと、苗字が大げさに反応した。

「素顔見たことないのに!?」

 確かに俺も、女子相手に「可愛い」は出過ぎた真似だと思った。けれど今更撤回するわけにもいかない。

「今から見せろ」

 俺は苗字のマスクに手を伸ばす。すると苗字は大げさに逃げ回る。

「わっ! 佐久早くんに脱がされるー!」
「おま」

 誤解を生むようなことを言うんじゃない。そう思ったけれど、俺も俺で誤解させるようなことを言っていたのでおあいこだ。