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「タコ」
糸師冴は、私を目の前にして言った。冴の口が悪いのはいつものことだ。けれど、今ばかりは言わなくていいのではないだろうか。
「信じられない! この状況で悪口言う!」
私は冴の下から――腕の中から、文句を言った。ここはベッドで、冴に押し倒されている最中だ。普通は甘い言葉の一つでもありそうなところも、糸師冴にかかれば悪口である。
冴は顔色を変えないまま、私の羞恥心を煽るように呟いた。
「顔真っ赤」
なるほど、先程のは悪口ではなく私の見た目の感想であったらしい。納得しても余計に恥ずかしさが増すだけだ。
「仕方ないじゃん」
冴に押し倒されているのだから。冴は「それもそうだな」と言うと、私にキスをした。
それから冴は、私にタコと言わなかった。私がずっと真っ赤であったからだ。冴は慣れているのだろうと思わせる手つきで私に触れた。それが少し寂しかったけれど、私は満足した。満足した私を見て、冴も満足しているようだった。いつか赤面しなくなったら、冴の甘い言葉も聞けるのだろうか。
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