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「無理して諦める必要ねぇんじゃねぇの」
俺が言うと、名前は目を見開いた。名前と付き合うことができない、と伝えたのは前回帰国した時だった。それから名前は明らかに俺を避け、なおかつ落ち込んでいるようだったので、俺は声をかけずにはいられなかったのだ。こういうことをするのは残酷だと名前の友達か誰かに非難されたら、それは甘んじて受け入れようと思う。
「俺今彼女いねぇし。お前に好かれてても特に困ることはねぇ」
名前の告白を断った理由は、サッカーに集中したいからだった。要するに彼女を作る気がないのだ。名前より先に、思い浮かぶ女がいるわけではない。
「俺のことを好きでいた方が幸せでいられるならそうしたらいいだろ」
何故か俺は、名前の顔を見られなかった。恥ずかしいことを言っている自覚があったからだ。名前の幸せを願っている。それは名前を好きだからなのだろうけれど、俺は幼馴染として好きだからそう思うのだと思っていた。思うようにしていた。自分の中で芽生え始めている恋愛の気配に、俺は気付かない。どうして振った相手の幸せを願うのだろう。その矛盾に気付いた時、俺は名前を迎えに行くだろう。もしかしたら、そのためにわざと諦めないように言っているのかもしれない。名前はバカだから、そんな俺のずるい戦略にはまっている。
「うん」
その笑顔を見た時確かに心が揺らいだけれど、俺は気にしなかった。俺の中の恋の予感が芽生えていることに、俺は気付けない。
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