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どうも気分が落ち込んでいた。任務での失敗、彼氏である傑が女子にまとわりつかれていたこと、女子特有の日。理由は様々だが、今すぐにでも鬱憤を晴らさないと爆発してしまいそうだった。傑はそれをわかっているのかいないのか、先程から手にマニキュアを塗っている。集中しているようだが、話をすれば聞いてくれるだろう。でも、傑なら私の異変に気付いて自分から話を聞いてくれそうなものなのに。
お門違いに恨みがましい視線を向けると、傑は無表情のまま口を開いた。手のマニキュアはほぼ完成している。
「今マニキュアを乾かしているんだ。つまり身動きがとれない」
だから何なのか。そう言おうとした時、傑が初めて顔を上げた。その表情は、彼女を甘やかそうとする彼氏そのものだった。
「お好きにどうぞ?」
その言葉を聞いた瞬間、私は傑に抱き着いた。傑は手を使わずに、体で私を受け止めた。
傑は私に気付いていたのだ。気付いた上で、放置していた。私が傑に好き勝手していい状況を作るために。
傑の胸に顔を埋め、頬を擦り付ける。傑の匂いを鼻腔いっぱいに嗅ぐ。それでも傑は平気そうだ。もっともっと、欲を伸ばしてもいいのかもしれない。私は甘やかされているはずなのに、試されている気になってきた。これが傑の想定とおりであることは間違いないのだ。ならば私は傑の手のひらの上で踊るのみだ。
傑の首筋に顔を近付けると、傑は目を細めてみせた。私がどこまでするか監視しているような視線に、腹の奥が熱くなった。
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