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 突然だが僕は、二次創作を好んでいる。楽しめるエンタメが少ない僕にとって、オンラインで完結できるフィクションはとても都合がいいのだ。好きな漫画のキャラクターがコマの外で動いているところを見られるとなると、やはりテンションが上がるものである。

 だが、困った。クラスメイトの苗字名前を前にして、僕は顔に出さずに焦っていた。

 僕が好む二次創作の作者が、彼女だったのである。オンラインだからネタバレをされずに済んだものを、作者が同じ教室にいたのでは作品のネタバレどころか僕が楽しみにしている二次創作のネタバレすら食らってしまう。教室の壁にめり込む勢いで距離をとろうとする僕を、彼女が不思議そうな顔で覗き込む。

「どうしたの? 斉木くん。そんなに私のこと嫌い?」

 いや、好きだから困ってるんだよ。

 好きなのは苗字さんの書く二次創作だが、と心の中で付け足し、僕は顔を背ける。

 せめてテレパシーさえ遮断できれば、彼女と話せるのだが。

 生憎ゲルマニウムリングは僕の手の届かない位置にあった。あれがはめられれば、彼女と普通に話せるのに。

「斉木くん、好きだから困るって、それって……」

 彼女の様子も意に介さず、僕は必死に彼女に語りかける。

 そこにある指輪を僕にはめてくれ!

 僕としてはテレパシーを遮断したい一心だったのだが、通常異性に指輪をはめてもらうことが意味することに気付いたのは彼女の心の声を聞いてからである。さて、どうしたものか。僕は自分が新たなピンチを迎えていることに気付いた。